「一体誰と誰の間の停戦なのか?」という素朴な疑問
ロシアが譲らず、トランプ大統領も支持していると言われている【ドンバス地方のロシアへの割譲および当該地域からのウクライナ軍の撤退】(ゼレンスキー大統領はこれについては受け入れ不可と明言)に絡めて、【ドンバス地方をロシアとウクライナ間の緩衝地帯にして、自由経済圏にする】という案が現在、落としどころとして検討されており、欧州各国も、一枚岩ではありませんが、この案に前向きな反応を示していることから、「停戦が近く実現するのではないか」との根拠なき期待感が高まっていますが、注意すべきは、当事者たるロシアもウクライナもこの案にはコメントしておらず、「一体誰と誰の間の停戦なのか?」という素朴な疑問が湧いてきてしまう状態が放置されていることです。
一応、この案は近々、米ロ間、およびアメリカとウクライナ・欧州各国との間で協議される予定とのことですが、今週行われたベルリンでの事務レベル会合では議論が紛糾したとのことで、トランプ大統領が求める“クリスマス停戦”の成立見込はかなり低いものと思われます。
そしてその認識はプーチン大統領にも共有され、ゆえに発言が過激化し始めているように見えます。停戦の可能性を仄めかしつつ、戦後復興の要素として挙げられる平和維持部隊の中にNATO諸国の部隊が加わることはロシアへの挑戦と受け取らざるを得ないと牽制し、どのような構成にするかはロシアの承認を経る必要があるというように、事実上、成立しないような条件を掲げて牽制しています。
その認識を受けてでしょうか。欧州各国でも対応が分かれ始めています。
EUとしては早期の停戦を求め、ウクライナ問題を優先課題として扱う旨、明言していますが、停戦が仮に成立した場合の平和維持軍への各国部隊の派遣については、対応がまちまちです。
すでにイタリアのメローニ首相は「イタリア軍の参加はない」と明言し、ドイツのメルツ首相は「ドイツ軍の参加については要検討」と言葉を濁し、英国のスターマー首相やフランスのマクロン大統領などは、平和維持部隊の必要性及び協力の意思については繰り返し発言するものの、参加の有無や時期については明言せず、この平和維持部隊のアイデアもトーンダウンし始めています。
しかし、この国際平和維持部隊の設置及び配置は、ウクライナの安全の保証と確約には不可欠な要素であり、アメリカは部隊の参加には極めて消極的で、欧州に負担を強いる考えであることから、欧州が退くのであれば、その効力と実用性は崩壊するものと考えられます。
ここでもまたプーチン大統領の戦略が勝っているというイメージを抱きます。
トランプ大統領をプロセスから切り離すか否かの瀬戸際でのやり取りを継続し、欧州には脅威をアピールして対応を分裂させて骨抜きにさせ、ウクライナを相手にしたりしなかったりと揺さぶりをかけ、ひたすら当初からの姿勢と要求を頑なに突きつけ、何ら妥協・譲歩することなく、ウクライナ、米国、欧州などに一方的に譲歩させるという、旧ソ連時代からのお得意の交渉スタイルが、このところ見事にはまっているように見えてきます。
こうなると、ウクライナが突然、根負けして屈辱的な結果を受け入れるようなことがない限り、戦争が終わることなく長期化し、欧米諸国の関心とコミットメントが低減し、ウクライナが孤立を深め、自滅していることも予想されます。
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