国際法はまだまだ未熟であり、強制力もないから、全く無意味なものにも見えるが、これにも同じことが言える。 人類は果てしなく戦争の歴史を繰り返し、そこに基いて、国際関係にも秩序感覚が必要だという感覚が生じるようになってきた。
特に第一次世界大戦の大惨禍に懲りた後には、「戦時国際法」で戦争をルール化しようという動きが強まっていったのだ。
ところが第二次世界大戦が起こると、せっかく芽生えかけていた国際法は完全に踏みにじられ、特にアメリカは日本に原爆を2発落として民間人を大量虐殺するという史上最大最悪の国際法違反を犯し、さらには「東京裁判」をでっち上げ、単なる「勝者の復讐」を「法の裁き」のように偽装するという暴挙にまで及んだ。
だからこそインドのラダ・ビノード・パール判事は、当時の国際法に正確に照らして「日本無罪」の判決書を書いたのである。
パール判事は「世界連邦」思想の支持者だった。 全世界の国々を「連邦国家」のようにまとめて、国際法の下に秩序づけるという、とてつもなく大きな構想を持っていたのだ。
もちろん80年近く経っても「世界連邦」は実現の兆しすらないし、冷笑主義者からすればこれは「お花畑」にしか見えない発想だろうが、これが提唱されたのは、原爆投下の記憶がまだ生々しい時代だったのだ。
その時代に、この悲劇を二度と繰り返さないためには、なんとしても理想的な世界を目ざさなければならないと考えたことを、せせら笑える人などいるのだろうか?
イラク戦争の際もアメリカはイラクのフセイン大統領を「悪」と決めつけ、何の証拠もない「大量破壊兵器」を口実に侵攻した。
わしはそれを「国際法違反」だと批判したが、そうしたら岡崎久彦や中西輝政ら親米保守派から「国際法なんか役にも立たない」と嘲笑された。 あれから23年経つが、起こっていることが似すぎていて、ほとんどデジャヴュだ。
あの時も自称保守ら右側の人間は、「国際法なんか要らない!強い方が勝つだけだ!」と居直った。
それに対してリベラルら左側の人間は「国際法違反を許すな!国際法を守れ!」と言い張った。
国際法についてはこの二つしか意見がないかのように思われていて、わしも「国際法違反」を主張していたから、この頃はすっかり「左翼」扱いされていた。
だが本当は、わしの立場は右とも左とも違った。
わしは保守であり、いつも言っていることだが、保守はリベラルを内包しているのである。
国際法なんか要らなくて、完全なる弱肉強食の世界に戻してしまっていいという、右の意見と異なっていたことはもちろん明らかである。
しかし、だからといってわしは国際法を「金科玉条」にして、これさえ振りかざせば意味のある批判をしたことになると思っている、左の感覚とも違っていた。
国際法は慣習法であり、現状ではまだ無力であるというのは前提だ。 国際法を執行する権力装置は国連にもなく、違反を取り締まる警察も、強制力のある裁きを下せる裁判所もない。
しかし国際法は慣習の積み重ねだからこそ、その中に人類の英知や尊厳といったものが含まれているのではないか?
もしも人類に英知も尊厳もなく、ただ愚かなだけのものだったとしたら、結局は人類とは滅ぼすべきものでしかなかったという、昔からあるSFみたいな終末を迎えて終わりである。 最後は核戦争を起こして人類絶滅に行き着くまでが必然だったという結論になるだけなのである。
そんな結末を残したくないのであれば、やっぱり国家間の世界的なルール感覚というものを育てていくしかない。 もちろん未だに全部が確定したわけではないし、「世界連邦」なんて永遠に到達しない夢かもしれないが、それでも国際法を徐々に徐々に育てていかなければならない。 それが大人の責任というものじゃないか。
現状の国際法は無力であり、今それにすがっても全く無意味である。 それは、ロシアのウクライナ侵略の時点で証明されてしまった。
それまではわしも、核を持たない日本が核大国に対抗するには国際法を使うしかないと考えていたが、わしはここで思考をアップデートさせ、やっぱり日本も核武装するしかないと考えるようになった。
しかし、だからといって国際法はもう要らないと考えたわけではない。
現状に対処して核武装をしながらも、もっと長いスパンでは、国際法を育てるということを人類共同の努力目標としていくしかないというのが、わしの考えである。
そうしなければ、「人類滅亡」という結末に行くしかないのだから。

国際法なんか要らないと貶める者も、現状の国際法を祭り上げる者も、どちらも国際法とは何なのかを理解していない。
国際法について、理念としてどういう考えを持っているかが問われるのである。
(『小林よしのりライジング』2026年1月6日号より一部抜粋・敬称略。そのほかのコーナーもご覧になりたい方は、この機会にぜひご登録ください)
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