欧州に広がる「アメリカは敵対国」という本音。グリーンランドを巡るトランプの強硬姿勢が露わにした「西側」の深刻な分裂

 

トランプが「グリーンランド取得」にこだわる背景

そしてそれはまた、アメリカが・トランプ政権が強引に推し進めようとしている様々な“事業”を支える担い手を大量に失うことも意味します。

つまりアメリカ合衆国にとってもかなりのリスクを負う“提案”となりますが、なぜこのような荒唐無稽な提案をするに至ったのでしょうか?背景を整理してみたいと思います。

今回ターゲットになっているグリーンランドですが、北極海と北大西洋の間にある世界最大の島(米・テキサス州の約3倍の面積の約213万800平方キロメートル。日本の面積の6倍弱の大きさ)で、デンマーク本土とフェロー諸島と共に対等な立場で立憲君主制国家であるデンマーク王国を形成し、同国の自治領でもあります。

1721年から1953年まではデンマークの植民地で、1979年5月には自治権を獲得し、歴史的、地理的、また国家としての特殊性からデンマーク王国の一部としての自治政府が置かれ、広範な自治が認められています。

2009年には、自治法の改正と自治協定の締結が行われ、政治的な権限と責任がデンマーク政府からグリーンランド政府へと移譲されましたが、外交と防衛はデンマーク政府が担うのが現状です。

つまりデンマーク王国の不可分の一部であるわけですが、地理学では“アメリカ州の一部”という分類がされることもあり、アメリカ合衆国とカナダを形成する北アメリカ大陸と近接することから、アメリカ政府が何度かその取得または領有を試みたことがあります。

記録上は1865年から69年までのAndrew Johnson政権、第2次世界大戦後のトルーマン政権がデンマーク王国に対して、グリーンランドのアメリカへの譲渡を依頼していますが拒否され、その後、アイゼンハワー政権時に対ロ防衛のための重点拠点との認識から、アメリカ軍の基地が設置されて、一応、アメリカにとっての足掛かりは作られたことになります。

その後は冷戦が終わった後も、特にグリーンランドの問題がアメリカ国内で取り上げられたことはありませんが、トランプ大統領は第1次政権時に、グリーンランドの地政学的な重要性、北極海における航路と海底資源開発の可能性に目を付け、その後、気候変動により北極海の厚い氷が溶解し、航行が可能になると、Arctic Councilを構成する各国は挙って北極海を戦略的に位置づけ、そこに自らをNew Arctic stateと位置付ける中国が加わり、物流のアクセス路としてのみならず、軍の艦船を交えた軍事的な戦略channelとしても緊張が高まっています。

実際にトランプ大統領が主張するようにロシアと中国の潜水艦がグリーンランドを取り囲んでいるという“事実”は確認されていないようですが、トランプ政権下のペンタゴンの分析によると、欧州各国はグリーンランドの戦略的な重要性に気付いておらず、防衛を怠っているという認識を強めており、「欧州が何もしないなら、アメリカが防衛し、そして北極海におけるパワーバランスを保つ」という“使命感”を表明しています。

今頃になって欧州各国は慌てて自国軍をグリーンランドに駐留させると宣言していますが、それはあくまでもアメリカによる軍事的な領有に抗議する意味合いからの動きに過ぎず、「北極海を巡る地政学的なバランスに配慮しているかどうかは疑わしい」というのがアメリカの言い分の一つです。

トランプ政権がアイゼンハワー時代に設置した米軍基地を再強化し、グリーンランドに潜水艦の基地を設置することに加え、戦略爆撃機の配備や対ロ防空システムの設置などを盛り込んだ案を前に進めようとしているのは、「グリーンランドはNATOの北極海における最重要な軍事的な側面(NATOの軍事的プレゼンスの翼)であり、同時にアメリカにとって北極海における対ロシア防御壁」という認識からの戦略的な動きと理解できます。つまりNATO軽視の姿勢ではなく、NATOに対する危機喚起という側面があると考えられます。

やり方が強引であることは否めませんが、このように見るとアメリカ政府の主張は一理あるようにも思われます。

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