欧州に広がる「アメリカは敵対国」という本音。グリーンランドを巡るトランプの強硬姿勢が露わにした「西側」の深刻な分裂

 

残されている「米のグリーンランド購入」というオプション

ダボスでの欧州首脳との協議の結果かと思いますが、軍事的な手段を用いてグリーンランドをアメリカのものにするという計画は一旦取り下げられた模様ですが、「アメリカがグリーンランドを購入する」というオプションはまだ有効な選択肢として考えられており、アメリカがグリーンランドを諦めることはなさそうに見えます。

ちなみに米国政府の試算では、仮にグリーンランドを購入すると約7,000億ドル(日本円で110兆円)かかるそうですが、この購入案にデンマークが合意することはなさそうです(そしてアメリカ議会もそのような額の出資を認めることは無いと考えます)。

とはいえ、アメリカがかなり本気であることも感じ取っているのか、デンマーク政府はアメリカ政府とグリーンランド自治領を当事者とする作業部会を早速立ち上げ、広域安全保障の確保の観点から見たグリーンランドの扱いについて協議している模様です。

直接協議には参加していませんので、詳細については要確認ですが、ここまでのところ“購入”は非現実的であることで見解が一致しているものの、アメリカ政府が何も獲得せずに引き下がることがないことも明らかになっているとのことです。

現在、有効な解決策として考えられているのが、かつてアメリカが南太平洋の島嶼国との間に締結したCOFA(自由連合協定)をモデルに、グリーンランドにおけるアメリカのプレゼンスを上げるための手段を協議している模様です。

アメリカ軍にグリーンランドでの活動の裁量権を認める代わりに、アメリカがデンマークやグリーンランドに対する経済的な優遇措置を約束し、グリーンランドの開発に貢献するというディールが検討されているとのことですが、トランプ大統領はあくまでも“所有”というラベリングをお好みのようで、今後、どのような展開になるかは不透明です。

では欧州側の反応はどのようなものでしょうか?

「アメリカがグリーンランドに軍事侵攻すれば、NATOは根本から崩壊し、環大西洋の同盟も終焉する」という危機感は共有しているものの、対応については一言でいうと全く一枚岩とは言えません。

「荒唐無稽で馬鹿げている」という感触は共通しているようですが、対応についてはまちまちです。

例えば、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーなどはグリーンランドに自国軍を駐留させてアメリカが(ベネズエラに行ったような)軍事的にグリーンランドに侵攻する事態に備える動きをしているのに対し、アメリカの特別な同盟国を自任する英国は「アメリカがグリーンランドに軍事作戦を行うようならば、英国軍を派遣する」(スターマー首相)と強い不快感を示しつつも、まだ軍は動いていませんし、フランスは軍事的なプレゼンスについては発言せず、あくまでも領事館をヌーク(グリーンランドの首都)に開設するという外交的なメッセージに留まり、イタリア(メローニ首相)については、トランプ大統領が示す“意義”にはある程度の理解を示しつつも「手段が大いに間違っている」と反対していますが、EUやNATOとは距離を置き、イタリア軍をグリーンランドに送ることには反対しているようです。

西洋の存続の危機、NATOの危機…などへの危機感は共有しており、かつ昨年12月5日に公開されたアメリカの国家安全保障戦略(NSS)において欧州に対する辛辣なコメントや見解が述べられたことに対する反発は欧州各国間で共有されているものの、なかなか対米強硬策に出ることができない理由は「ロシアによるウクライナ侵攻を失敗に終わらせないと、欧州全域の安全が脅かされることになり、それを防ぐ唯一かつ最適な手段こそが、アメリカのウクライナに対する継続的なコミットメント」だと考えていることがあります。

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