欧米間の分裂を「チャンス」と捉えて動くロシアと中国
そのような状況を眺めて戦略的な重要性を拡大しているのがプーチン大統領のロシアです。
ペスコフ大統領府報道官は1月19日に「もしトランプ大統領がグリーンランドを取得するようなことになれば、確実に世界史に名を刻むことになる」と皮肉たっぷりにグリーンランドを巡る欧米対立を揶揄していますし、ラブロフ外務大臣は1月20日に「西側社会で危機が深まっている。NATOの結束を含め、想像もしていなかったような議論が展開されている」と“懸念”を表明しつつ、「アメリカにとってグリーンランドが重要なのと同時に、クリミアもロシアの国家安全保障にとって重要だ」と、2014年のクリミア併合を正当化し、加えて「現在、進行中のウクライナに対する特別軍事作戦も、ロシアの国家安全保障にとっては非常に重要であることを理解すべきだ」と欧米諸国が行うロシア非難を糾弾する動きに出ています。
その上で、トランプ大統領が繰り返す“ロシアと中国がグリーンランドを狙っている”という発言に対しては「ロシアはアメリカのグリーンランド取得には一切関係なく、中ロがグリーンランドを取得する意図が全くないことをここに繰り返し明言するし、トランプ大統領もそのことを知っているはずだ」とし、「ロシアと中国に欧米間の争いの原因を擦り付けることは許しがたい」とアメリカと欧州に対して非難をしています。
そしてロシア・ウクライナ戦争の“停戦”を巡る米ロ間の協議、そして対ウクライナ協議のロシア特別代表を務め、今週、プーチン大統領の名代としてダボス会議に参加しているドミトリエフ大統領特別代表は「グリーンランド問題は大西洋横断連合の崩壊を意味すると考えるが、ついにダボスで議論する価値があるトピックが出来て嬉しい」と述べ、欧米の確執の深まりを横目に、欧米社会がこれまでに国際社会に投射してきた大きな矛盾を明らかにし、各国の欧米離れを加速させ、中ロに寄せてくる機会が到来したとみているようです。
今のところ、トランプ大統領がこれらのロシアからのコメントを相手にしている様子は見えませんが、ウィトコフ特使をダボスに帯同させ、ドミトリエフ特使との間で、ロシア・ウクライナ戦争の行方はもちろん、対イラン、対ガザなど多方面の問題を話し合わせているようです。
これはまるでダボスで立ち上げられたBoard of Peaceの狙いを具現化するような動きではないかと考えられますが、いかがでしょうか?
トランプ大統領に近い幹部によると、トランプ大統領とその側近たちは「欧州は原理原則ばかり突き付けて、実際には問題の解決に取り組もうとしない。平和を創造するためには欧州とだらだら議論を重ねるよりも、当事者であるロシアと話した方が効率的だし、すでにプレゼンスを高めている中国と直にディール・メイキングしたほうがよい」と考えているようだと述べており、Board of Peaceに参加する国々とどんどん世界の進むべき方向を考えようとしているようです。
欧州各国はもちろんそれを黙って眺めているはずもありませんが、かといって効果的な対策を打ち出せるわけではなく、ただトランプ大統領が打ち出す提案に反対し、非難を浴びせるだけのように見えます。
完全に欧米間が分裂してきているように見えますが、これをチャンスと捉えて動くのがロシアと中国です。
先述のメローニ首相の発言にもあるように、欧州各国はロシアとの関係修復のための対話を始めるべきと考え、モスクワにアプローチをはじめ、ダボスにおいてもドミトリエフ特使との協議も行われ、ウクライナ戦争の行方に関わらず、ロシアの魔手が欧州各国に及ばないための策を練っているようですし、トランプ大統領が何かあるたびに関税を脅しとして用いることに飽き飽きしてきたのか、対米バランスの向上なのか、それとも経済的な貿易の形を作るためなのか、中国との関係修復および強化にも勤しんでいます。欧州の変わらない多方面実利主義外交の現れでしょうか。
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