欧州が打った「禁じ手」とトランプが突き付けた「踏み絵」
ただ、アメリカのトランプ政権にとっては、地政学的な重点は実はロシアへの対策ではなく、中国からのアメリカへの挑戦に対する策であると思われ、中国対策に力をさらに注ぐために、内容は二の次で、とにかくロシア・ウクライナ戦争を“終結”させ、ロシアとの関係改善を図ったうえで、中国と対峙するべきとの思考が強まっているとの認識が欧州全域で共有されていることから、あの手この手を尽くしてアメリカを“西洋”に留めようと苦慮している模様です。
その一手が、禁じ手とも思われるのですが、ウクライナへの支援と並行して、欧州各国が再開した中国との関係改善とロシアに対する再コミットメントです。
メローニ首相は「いろいろとあるが、現状に鑑みて、欧州はロシアとの対話を再開すべき」と述べていますし、マクロン大統領も「モスクワと協議するべき時が近づいている」と発言し、ドイツのメルツ首相も、ロシアによるウクライナ侵攻と非人道的行為を非難しつつも、「モスクワと協議することなしに、問題の解決は見通せない」と、やっとまともなことを言いだして、ロシアとの“手打ち”を模索しているように見えますが、これは明らかにアメリカが欧州を見捨てた場合のヘッジではないかと考えています。
そこでlast resortとして欧州が考えたのが、「1月22日にパリでG7首脳会合を開催し、そこにロシア、ウクライナ、デンマーク、シリアの首脳も招いて、グリーンランド問題をはじめ、ロシア・ウクライナ問題、中東和平など包括的に協議する」という提案(マクロン大統領)でしたが、トランプ大統領はダボスでの自身の演説前に、このマクロン大統領からの提案を一蹴したため会談は実現せず、米欧の歩み寄りのチャンスは途絶えたかのように見えます。
しかし、それは表向きの話であり、水面下での対話のチャンネルはちゃんと開かれており、欧米間の同盟国としてのつながりは保たれています。ただ、もちろん通常よりは緊張感が高まっていることは間違いありません。
トランプ大統領が欧州との距離感を図るために突き付けた“踏み絵”が、トランプ案でガザ紛争の解決策として提案されている平和協議会(Board of Peace)のマンデートを拡大し、ここでガザ問題をはじめ、シリアやレバノンを含めたイスラエル問題、イランの“脅威”、ロシア・ウクライナ戦争、そしてベネズエラをはじめとする中南米地域の安定などについて協議し、実質的な調停役として活動するFounding memberへの参加です。現時点では欧州の首脳で参加表明しているのは、ハンガリーのオルバン首相くらいで、あとの首脳は返答していません。
その理由として挙げられているのは、グリーンランド問題の存在もありますが、それよりも法の支配に基づく国際秩序を守る体制を軽視する取り組みに、法の支配を重視する欧州が関わることは許されないという矜持があるようです(とはいえ、かつての植民地主義や旧植民地に対する不平等な扱い・行いなどを考えると、欧州も見事な二枚舌です)。
それに加えて、ガザ問題やロシア・ウクライナ戦争など、それぞれがすでに混乱を極めている中、それらを一緒くたにして包括的に“解決”することは現実的ではなく、余計に世界を混乱させるとの欧州の恐れがあるものと考えられます。
【力こそ正義】と信じ、【国際協調の下で物事を解決する国連中心の法の支配による国際秩序の維持は非効率だ】と考えるトランプ大統領と、欧州の考えは相容れず、今、グリーンランド問題を通じて、NATOの分裂が加速しているのは、残念ながら間違いないと思われ、欧州サイドは有効な解決策を見いだせていないのが現状です。
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