中国「制服組トップの失脚」という前代未聞の状況
さて、色々なお話をしてきましたが、中国の動向も気になります。解放軍(PLA)のトップ将官のほとんどが追放されるという前代未聞の事件、特に制服組トップの張又侠の失脚は、汚職ではなく統制違反という、これまた前代未聞の状況です。
以降は、この問題に関するメカニズムを考察してみたいと思います。一つの見方は、台湾問題、具体的には「2027年までに侵攻準備を完了」という国の方針に関する対立があったという説です。これにも2説があって、PLA中枢は「頑張って準備に努力したができなかった」説と、「そもそも消極的だった」説があります。
この2説については、次のように考えられます。まず「頑張って準備に努力したができなかった」のでクビというのは、党の中枢が本気で侵攻を考えていたので、できないと言ってきたPLAと対立した可能性がある、そのように見えます。ですが、中国の政治とは権力闘争ですから、話はもう少し複雑になると思います。
それは、対立というのが、党とPLAではなく、党の内部にあったという可能性です。党の側に侵攻強硬派と、消極派があり、前者がとりあえず勝利して、PLAへのパージに至ったという可能性です。そう考えると、PLA中枢において「頑張って準備に努力したができなかった」説と、「そもそも消極的だった」説などというのは、もうどうでも良くなります。
そもそも政治闘争になっていたのは、党内の強硬派と穏健派で、その力関係が変化したのでPLAを切ることになった、そう考えるのが自然と思えます。それにしても、PLAの中枢に手を突っ込むというのは、かなり過激です。ということは、最高権力者として、この対立を収拾できず、PLAも庇えなかったという可能性が出てきます。
そのような事態が起きるとしたら、その原因としては1つしか考えられません。それは、最高権力者の座を巡る政争が本格化したということです。従来からは、次の常務委員会人事が2028年であるから、そこで現体制をより強固にして、一種の終身指導制に移行する、そのために2027年に実際に侵攻して歴史的功績を、という筋書きが語られてきています。
ですが、そうではなくて、2028の人事が焦点になり、次世代のワンツーをここで決める、そんな可能性があります。トップ交代まで行くのかはともかく、事実上勝利した側が事実上の最高権力を握る、そのような政争が始まっている、そう考えるのが良さそうです。高市氏の発言に過剰反応したのも、日本への渡航禁止を言いながら富裕層の個人手配旅行は止められないのも、こうした事情が絡んでいそうです。
一部にはクーデター説のようなものもありますが、過去50年の中国の歴史を考えると、そういう過激なことではないと思います。PLAへのパージは、党の内部に深刻な対立があり、それは次世代指導者を巡る対決である可能性が高いですが、それ以上でも以下でもないと思われます。
更に推測を進めるのであれば、前回の2023年の人事においては、「バブル清算+汚職根絶」を主張した太子党が、恐らくは「バブル継続」に動いた共青団を排除した格好でした。では、次回の人事へ向けた対立として争点があるとしたら、もしかしたら台湾問題における強弱があるのかもしれません。
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