骨の髄まで「戦争国家」。アメリカの治らない宿痾
とはいえ、大統領のスキャンダル隠しだけが米国の戦争の動機という訳ではない。話はむしろ逆で、そんな個人的な恥ずかしいスキャンダルから目を逸らすためにでも戦争を起こせてしまう、「戦争国家」という病に骨の髄まで冒されているたぶん世界唯一の国だということが問題なのである。
実際、第2次大戦終了以後に米国が何らかの程度で関わった主な戦争を一覧表にしてみると(文末に掲載)、歴代の全ての大統領が戦争を発動したり紛争に軍事介入したりしていて、戦争は米大統領にとって“日常業務”のようなものであることがわかる。
アイゼンハワーが1961年1月の大統領退任演説で巨大な軍事機構と大規模な軍需産業が密接に結びつくことを軍産複合体(Military-Industrial Complex)と呼び、「この結合が不当に大きな影響力を得て、我々の自由あるいは民主主義のプロセスを危険に晒すことを許してはならない」と警告したのも空しく、それから3分の2世紀を経て米国はますます戦争国家の道を転がり落ちている。とりわけ冷戦終結後の米国が戦争にしがみつく歪んだ精神構造については、フランスの皮肉屋の評論家エマニュエル・トッドがイラク戦争について語った言葉が当を得ている。
▼つい最近まで国際秩序〔維持〕の要因であった米国は、ますます明瞭に秩序破壊の要因となりつつある。イラク戦争突入と世界平和の破壊は、この観点からすると決定的段階である。
▼経済封鎖で疲弊した人口2,300万人の低開発国=イラクに世界一の大国=米国が仕掛けた侵略戦争は「演劇的小規模軍事行動」のこの上ない具体例にほかならない。
▼弱者を攻撃するというのは、自分の強さを人に納得させる良い手だとは言えない。戦略的に取るに足らない敵を攻撃することによって、米国は己が相変わらず世界にとって欠かすことのできない強国であると主張しているのだが、しかし世界はそのような米国を必要としない。軍国主義的で、せわしく動き回り、定見もなく、不安に駆られ、己の国内の混乱を世界中に投影する、そんな米国は。
▼ところが米国は〔本当は〕世界なしではやっていけなくなっている。貿易赤字はさらに増大し、外国から流入する資金フローへの依存もさらに深刻化している。米国がじたばたと足を掻き、ユーラシアの真ん中で象徴的戦争行動を演出しているのは、世界の資金の流れの中心としての地位を維持するためなのである。
▼しかし戦争への歩みは、米国のリーダーシップを強化するどころか、逆にワシントンのあらゆる期待に反して、米国の国際的地位の急激な低落を生み出した。……
これは、イラク戦争が始まった1カ月後に出版された『帝国以後』日本語版への前書きからの引用だが、トッドのブッシュ子のイラク戦争に対する評言は2026年のトランプのイラン攻撃にそのまま、ますますピッタリと当て嵌まるだろう。米国は、
もうそれしか残っていない“強さ”である軍事力を無闇に振り回して力尽くで大国の地位を守ろうと足掻くのだが、そうすればするほどカナダやスペインをはじめ同盟国からさえも“弱さ”を見抜かれて軽蔑され、地獄に堕ちて行くのである。
さあて、そこで、我が日本の首相は来週ワシントンを訪れて、トランプの横で手を振りながらピョンピョン飛ぶといったパフォーマンスを再び演じて世界に恥を晒すのだろうか。
※ 資料《戦後の全ての米大統領は戦争に関わってきた!》
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年3月9日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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