かつて、宮澤喜一元首相が外務大臣だったときに「我が国は兵器の輸出で金を稼ぐほど落ちぶれていない、もう少し高い理想を持った国として今後も続けていくべき」と発言していますが、これを高市氏は「もう時代が変わった」と一蹴し、防衛産業を成長産業と位置付けています。
しかし、5類型の撤廃は、平和主義を貫き軍需産業を封じ込めてきた我が国にとって大きな方向転換です。実際、BBCやニューヨークタイムズなどは、「日本は戦後の平和主義を転換させた」と報道しており、世界が日本を見る目は明らかに変わりつつあります。
ポストした井深氏の発言に戻ると、「軍事技術が民生用に転用されることで技術は進化する」という世間一般の解釈とは真逆のものですが、戦時中に海軍の技術将校として戦争に関わったことへの反省も込めた弁だったのではないかと思います。
このポストに対して、「だったらソニーはインターネットを使ってないのか」とか、「デュアルユースは常識だろ」とか、「CMOSセンサーなどのソニー製部品が兵器に多用されている」などと揚げ足を取るような反論も寄せられましたが、それらの指摘は、井深氏が戦争体験を経て軍事を全否定するようになった信念とはまったく関係がありません。
ノンフィクションライターの立石泰則氏が、自著『戦争体験と経営者』(岩波新書)の中で、「長年、様々なタイプの経営者を取材してみて、彼らの間には明確な一線がある」と書いています。実際に戦場に立った経験の有無が、戦後の彼らの生き様に決定的な違いをもたらしているとして、ダイエーを創業した中内功氏をはじめ、戦後、徹頭徹尾平和主義を貫いた経営者を何人か取り上げて紹介しています。
それ以外にも、平和主義を貫いた気骨ある経済人はいくらでもいました。例えば、旧日本興業銀行頭取だった中山素平氏は、1991年に湾岸戦争が勃発した際、「自衛隊の派兵はもちろんのこと、派遣も反対だ。憲法改正に至っては論外だ。第二次世界大戦であれだけの犠牲を払ったのだから、平和憲法は絶対に厳守すべきだ。そう自らを規定すれば、おのずから日本の役割がはっきりしてくる」と述べたそうです。しかし最近では、政府にはっきりと意見するような経済人はめっきり見掛けなくなりました。
政治家の最も重要な責務の一つは、自国が戦争に巻き込まれないようにすることに他なりません。しかしながら、高市氏や維新の馬場氏など、改憲を推し進めようとする人たちの乱暴な意見を聞いていると危うさしか感じません。
政府は、「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」なるものを設立し、先月末に最初の会合を行っていますが、構成メンバーを見ると、「何でこの人が?」というようなメンバーが散見され、改憲や安保3文書改訂に向けたアリバイ作りの場であることは明らかです。
曲がりなりにも井深氏の薫陶を受けた者の責務として、今後の政府の動きには警戒を続けたいと思っていますが、読者の皆さんはどのようにお考えでしょうか。
(本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年5月8日号の一部抜粋です。このほか「【3周年記念特別企画】ソニー元社長安藤国威氏と語る」と題した「今週のメインコラム」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”のつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください)
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