まともな国家的インテリジェンス機能なき日本の不幸
フィリピンは、南シナ海をめぐる中国との紛争に直面しているので、ASEANの中では例外的とも言えるほど反中的だが、東南アジア全体をFOIPに引き込もうというのは、難しいというより無謀な試みである。
日経新聞4月7日付が引用したシンガポールのシンクタンクによる調査の結果によるとASEAN各国の有識者2,008人に「米国と中国のどちらかを選択しなければならないという場合にどちらを選ぶか」を尋ねたところ、6カ国で中国を選ぶ人が多かった(図:アジアの中国観)。
日本では9割以上の人が中国嫌いだとされるが、世界はもっと複雑だということである。インドにしても同様で、およそどこの国も安保一本槍で外交政策を組み立ててはおらず、どちらかと言えばまずは経済重視だし、それぞれの歴史的=文化的な社会要因も無視することはない。
こうして、安倍由来のFOIP戦略ないし構想は、始まった時にすでに冷戦後遺症的という意味で時代錯誤であったのに加えて、高市はそれゆえの安倍の迷いや菅の脱却努力などの歴史も一切無視して、これを「強化」しようとしている点で時代錯誤の2乗を犯そうとしていると言える。
日本にまともな国家的インテリジェンス機能があれば、この時期には、(1)高市が突き進むFOIP拡張・強化路線、(2)それと対極にある田中均などのFOIP再検討→「アジア太平洋」への回帰により中国との対話再開へと転換する、(3)その中間の、例えば高原明生=東大名誉教授のFOIPを続けながらそこに対中対話を組み込むという(絶対不可能な間抜けな)案などいくつかの折衷案――を並べて、(2)を上策、(1)を下策とするが、高市政権がすぐに(1)を脱して(2)に飛び移るとは考えられないので、(3)のどこかに少しはマシな落とし所を模索するといった戦略判断のための報告書を出すのかもしれない。
しかしそういう機能はないので、高市が引き篭もって一人勉強の一知半解で決め込んだ方向に走る以外の選択が行われることはないというのが、この国の不幸である。
《資料再掲》安倍晋三首相(当時)の2012年12月27日付プロジェクト・シンジケート掲載の《アジアの民主主義国による安全保障の四角形》論文――(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年5月11日号より一部抜粋・文中敬称略。再掲資料「アジアの民主主義国による安全保障の四角形」論文の全文を含む続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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