もはや時代遅れでしかない「インド太平洋」という冷戦的発想
まず何よりも、「自由で開かれたインド太平洋」という戦略的発想そのものが、(1)米国を盟主とし、(2)日本と豪州が両脇を固めたところに、(3)東南アジアを巻き込み、(4)さらに中印間に楔を打ってインドをも味方につけて中国を包囲し孤立させようという、つまるところ「新・中国包囲網」をやや遠回しにした言い換えに過ぎず、冷戦後遺症の表れでしかなかった。
「自由で」とは独裁国=中国は世界の邪魔者だという意味であり、「開かれた」とは中国が南シナ海を囲い込もうとしているのは許せないという意味であり、「インド太平洋」とはそれまでの「アジア太平洋」という慣用的な言い方を「インド洋」にまで広げようとする地理的な概念拡張であるかに見せかけながら、上記のように「インド」国を中国と離反させてこちら側に引き寄せようとする願望の隠微な表明に他ならなかった。
安倍晋三首相がこれを公式に述べたのは、2016年8月27日、ケニアのナイロビで開催された第6回アフリカ開発会議の基調演説でのことで、そこでは「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を自政権の「戦略(Strategy)」と呼びながらも、反中国と取られるような露骨な表現は用いていなかった。
日本の外交姿勢をコントロールする米国の対日安保政策マフィア
ところがその後、このFOIPの真意をあからさまに述べていたのは第2次安倍政権発足翌日の2012年12月27日付で国際言論NPO=Project Syndicateのホームページに安倍晋三名で掲載された「アジアの民主的な安全保障ダイヤモンド(Asia’s Democratic Security Diamond)構想」という英語論文であることが明らかになり、その中で安倍は「私が描く戦略は、オーストラリア、インド、日本、米国ハワイ州によって、インド洋地域から西太平洋に広がる海洋権益を保護するセキュリティーダイヤモンド(ひし形安全保障)を形成することにある」と、堂々と述べていた。
本誌はこの問題について……、
◆ No.971(18年12月3日号)で、岩上安身のIWJサイトによる全文和訳(文末資料)とその解説のための「ひし形安全保障」のイメージ図を紹介しつつ解析したが、ここでももう一度それらを再録することにする。
★ イメージ図:ダイヤモンド安保
◆ No.1072(20年11月9日号)で、この反中国宣言で日中関係が完全に行き詰まってしまった中で、第1次トランプ政権が急速に米中関係の緩和に向かおうとすることに安倍が焦って、FOIP「戦略」との言葉を「構想」に和らげたり、親中派ボス=二階俊博幹事長の訪中に懐刀の今井尚哉秘書官を随行させたりした有様を描いた。
また20年9月に安倍に代わって首相に着いた菅義偉が、総裁選の対抗馬=石破茂の持論「アジア版NATO」構想を批判する形で、中国包囲網を完全否定したことなどを分析した。さらに、
◆ No.1280(24年10月7日号)で、岸田文雄の後を襲って首相になった石破のその「アジア版NATO」構想が、何の論理的整合性もない支離滅裂な代物であることを批判した。
またその構想が石破が総裁に選ばれる2日前の9月25日付で米ハドソン研究所のホームページに英文と和文で掲載されたが、和文には日本語として妙な個所があり、どうも石破が自分で書いてハドソンの誰かが英訳したものではなくて、誰かが英語で書いて石破の名で発表させたものであるらしいこと、そして、振り返ると、安倍の上記ダイヤモンド論文も第2次安倍内閣が発足した翌日の12年12月27日に国際的な言論サイト=プロジェクト・シンジケートのサイト上に英文のみで掲載され、ある出版社が安倍事務所にこの日本語原稿の提供を申し出るがそれが存在しないと言われ、ならば翻訳して日本国民に広く知らしめたいと再度申し出たところ、それも断られたという経緯があったこと――つまり、政権の変わり目に次の首相の名前で反中国姿勢を表明する英語論文を出させて日本の外交姿勢をコントロールするというのが、どうも米国の対日安保政策マフィアの常套手段となっているらしいこと――を指摘した。
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