“トランプの焦り”が首脳会談に与えた影響。中国の主張にアメリカが耳を傾けざるを得なかった理由

 

首脳会談に同行したイーロン・マスクがかつて語ったこと

中国側が会談で述べたことはこれまで繰り返されてきたことの焼き直しで目新しさには乏しいが、明らかにされている内容からすれば、人民大会堂の金色庁での話し合いよりも中南海でのやり取りに、より特徴があったと思われる。

金色庁では、習主席が大国の指導者としての責任としての「協力の必要性」を強調し、それに背を向けるのかと問うた。さらに「2026年を米中関係が過去を継承し未来を切り開く歴史的・象徴的な年としたい」と語りかけた。

これに対しトランプ大統領も「史上最高の米中関係を切り開き、両国により明るい未来を築いていきたい」と応じている。

新華社の記事によれば、習主席が「建設的戦略安定関係」という言葉を持ち出したのは中南海だ。習主席はそこで、「トランプ大統領は『アメリカを再び偉大に(MAGA)』することを望んでおり、私は中国人民と共に『中華民族の偉大な復興』を実現するために尽力している。米中双方は協力を強化することで、それぞれの発展と振興を促進することができる」とウインウインを呼びかけている。

つまり「中華民族の偉大な復興」はMAGAの邪魔にはならないと説得したのだ。

この裏には選挙を抱えた国が、中国叩きで有権者にアピールすることの「無駄」をやめてほしいとの中国の要望がある。

叩くより、協力して発展させることで有権者からの支持を取り付ける方が早道だと提案しているのだ。「無駄」の具体例は、まさに相互関税だ。

いずれにしても中国にとっては、アメリカが仕掛ける関税戦争であれ、その他の戦いであれ、ある程度の備えはできている。

ノルウェー防衛研究所のヨー・インゲ・ベッケボルド中国担当上級フェローは、「(湾岸戦争が起きた)91年当時、中国に衝撃を与えた米軍との技術格差はもはや存在しない。それどころか、今や中国の軍事力への自信は増す一方。アジアが対米戦の戦場になれば、自国に「地の利」があることも承知している」と『ニューズ・ウィーク日本版』に書いている。

産業分野では、米誌『フォーリン・ポリシー』のコラムニストのステファン・ウォルツ氏が記事「中国による覇権掌握が現実味を帯びてきた」の中で「トランプは太陽光や風力発電、先端バッテリー、電気自動車(EV)といった台頭著しいグリーン・テクノロジーの主導権を中国に譲り渡す一方で、20世紀の技術である化石燃料や内燃機関に固執している。まったく正気の沙汰とは思えない」と嘆く。

今回の首脳会談に同行したイーロン・マスク氏も、かつて「中国が、アメリカの3倍の電力を背景にAI分野で圧倒している」と語ったことがある。

もはや協力は、米中にとって最も合理的な選択なのだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年5月17日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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