巨人・阿部慎之助前監督の謝罪会見から見えた、現代人の「言葉遣い」と「責任感の希薄化」

 

かつて、おかしな日本語を話すと言えば、自分たちだけに分かる新語や造語を使いまくるJKを中心とした若い世代でした。しかし現在は、それなりの年齢に達している大人たちの中にも、おかしな日本語を使う人がジワジワと増えて来たのです。そしてその多くは、自分のことなのに、まるで他人のことであるかのように話す人たちなのです。3月にもこのメルマガで取り上げましたが、この春、TBSラジオが制作したラジオCMに、その傾向が顕著でした。

以下、3月の原稿を手直しして再掲しますが、その1つ目は、若い女性と落ち着いた声の男性が、女子社員と部長という役柄で会話しているテイのラジオCMです。

女子社員「部長!今度の若者向けプロモーション、TBSラジオを使ってみません?」

部長「ラジオかぁ~、でも今の時代、若者に届けるならデジタル広告が主流じゃないのか?」

女子社員「おっしゃる通り、だ~か~ら~、最近のTBSラジオはデジタル広告メニューも充実しているらしいんです!」

ナレーション「TBSラジオでは、デジタル広告予算から出向するスポンサー企業も増加中。ターゲット年代やエリアに合わせて、幅広いプランニングをご提案します。詳しくは『TBSラジオ CM』で検索して、TBSラジオプロモーションガイドまでお問合せください」

このCM、聴いたことのある人も多いと思いますが、あたしが気になったのは、女子社員の二度目のセリフの中の「充実しているらしいんです!」の部分です。自分から上司に「TBSラジオを使ってみません?」と提案してるのに、文末が「らしいんです」って、とても社会人とは思えない無責任ぶり、他人事ぶりです。

ま、上司に対して「だ~か~ら~」なんて言っちゃうような女子なので、あえて社会的常識が欠落した「おバカなキャラ」に設定されてるのかもしれませんが、もしもあたしが上司なら、間違いなく「ちゃんと調べてから提案しなさい」と指導します‥‥というわけで、続きましては、2月から4月まで良く流れていたこんなCMです。

ナレーション「TBSラジオ主催、伊藤蘭コンサートツアー2026、ツアータイトルは『ダンスオン、ラブオン』!」

BGM(雪がとけて~川になって~♪)

ナレーション「全国6都市、9公演のホールツアー、東京公演は5月30日、31日、SGCホール有明で開催、あの伝説の紙テープ応援OK!」

BGM(もう1回なんたら~♪)

伊藤蘭さん「皆さ~ん、伊藤蘭です。コンサートでは、アルバムの最新曲や、お馴染みのキャンディーズ曲も歌いますので、皆さんお誘い合わせの上、遊びに来ていただけたら嬉しいと思います」

ナレーション「詳しくは『伊藤蘭 コンサート』で検索!」

このCMも聴いたことのある人が多いと思いますが、あたしが気になったのは、伊藤蘭さん本人のセリフの「嬉しいと思います」です。自分のことなのだから「皆さんお誘い合わせの上、遊びに来ていただけたら嬉しいです」でいいのに、何でわざわざ他人事のような言い方をしているのでしょうか?

もちろんこれは伊藤蘭さんが自発的に言っているのではなく、ご本人は用意された原稿を読んでいるだけなので、何の責任もありません。でも、そうであっても、最初にこの原稿を読んだ時点で、どうして伊藤蘭さんは「この『思います』っておかしくないですか?」と指摘しなかったのでしょうか?それとも、指摘したのに「そのまま読んでください」と指示されたのでしょうか?

あたしが不思議に思うのは、こうしたCMはプロットから完成までに何人もの人の目や耳を通過して来るのに、その過程において誰一人として、この「らしいんです」や「思います」に違和感を覚えなかったのか?‥‥という点です。たとえば、生放送でパーソナリティーがうっかり変な言い方をしちゃったのなら分かりますが、これらはラジオで繰り返し流されるCMなのですから、少しでもおかしな部分があったら誰かしらが指摘して修正するはずです。

それなのに、誰一人として指摘しなかったということは、もしかして言語感覚がおかしいのはあたしのほうで、今どきはこうした他人事のような表現こそが一般的な時代になってしまったのでは?‥‥なんて思ってしまいました。最近は四方八方から揚げ足取りの猛禽類が獲物を狙っていて、ターゲットにされた人は何を言っても言葉尻を取られて炎上させられちゃう時代です。そこで、その対策として、あえて他人事のような表現を使い、自分の身を守る人が増えて来たのでしょうか?

そもそもの話、この「他人事」という言葉だって、本来の読み方は「ひとごと」一択でした。でも、口が酸っぱくなるほど「ひとごと」だと教えても「たにんごと」と誤読する人が後を絶たないため、いつの間にか「たにんごと」と読んでもOKってことになっちゃったのです。これではまるで、ドナルド・トランプが国際法など無視して他国への武力攻撃を繰り返したため、とうとう誰も「国際法違反だ!」とは言わなくなってしまった「無理が通れば道理が引っ込む作戦」と同じではありませんか。

しかし、同じ日本語でも平安時代の人たちと現代人のあたしたちがまったく違った言葉を話しているように、言葉は時代とともに変化して行くものなのです。郷に入れば郷に従えで、そのうちあたしが「きっこのメルマガの読者が増えてくれると、あたしも嬉しい気持ちでいっぱいだと思いま~す♪」とか言っても、誰も違和感など覚えない時代が来るのかもしれませんね(笑)。

(『きっこのメルマガ』2026年6月3日号より一部抜粋・文中敬称略)
 
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