高市首相「私の代で拉致を解決する」は本気?安倍氏が残した「口先だけのやってるフリ」の轍を踏むのか

 

本人確認せず鵜呑みにした政府

小泉はじめ日本政府の訪朝団は、この「5人生存、8人死亡」という通知を、生存とされた者の本人確認も、死亡とされた者の裏付け情報の取得も何もせずにそのまま受け入れ、直ちに被害者の家族などに伝達した。これでは、横田めぐみの母の早紀江が家族会の会見の場で《「いつ死んだかどうかも分からないようなことは信じることはできません」「まだ生きていると信じ続けて闘ってまいります」と訴えた」P.169》のは当然のことだった。実際にその後の日朝間のやり取りの中で、例えば横田めぐみの死亡時期を当初北朝鮮が出してきた死亡確認書では93年3月13日としていたのを、他の生存者から94年3月にめぐみを目撃したとの証言が出てくると、94年4月13日に修正するよう申し出るなど、杜撰極まりないものであることが露呈した。《02年10月29日及び30日にクアラルンプールで開催された第12回日朝国交正常化交渉においても、政府は150項目にわたる疑問点を指摘するとともに、更なる情報提供を要求したが、北朝鮮側からのまとまった回答はなかった。〔外務省公表の文書には〕「内容的にも一貫性に欠け、疑わしい点が多々含まれていた」と控えめに書いているが、北朝鮮は納得できる説明を一切行っていないどころか、書類を捏造してまで日本側を欺こうとしたのである。P.177》

小泉は、日朝国交樹立という外交的な金字塔を何としても打ち立てたかったし、金正日はそれに伴う賠償見合いの経済協力100億ドルを1日も早く手にしたかった。そのため、この発表を以て「拉致問題は決着」ということにして、早々に国交交渉に入ろうとすることで思惑は一致していた。そのため北側は、それらしい書類をデッチ上げたのは事実だが、それを《書類を捏造してまで日本側を欺こうとした》と言ってしまうのは、ちょっと可哀想だと私は思っている。主としては先代の金日成総書記時代の30年間に始まり実行された秘密工作機関による拉致作戦に、文書記録など残されているはずもなく、金正日としては《書類を捏造して》取り繕うより方法がなかったのだが、事務方のそのやり方が稚拙と言えるほどお粗末なものだったには、金正日にとっても誤算であったに違いない。《日本側を欺こうとした》のは日本側から見た結果論としてその通りであるけれども、邪悪な意図を持って欺こうとした訳でなく、なんとか辻褄を合わせて納得してもらおうと一所懸命にやったのに、こんな程度のものしか作れなかったというのが本当だろう。

憎悪を煽り続ける「救う会」と政治の退廃

しかし、早紀江をはじめ家族会の方々が「北は嘘ばっかりついている」「証拠がない以上、生きていると信じて闘う」と、北への不信を深め、生きていると信じるしかないという「祈り」のような思いを突き詰めていくのは当然のことだろう。そして家族会を支える「救う会」のような運動団体は、そこに日本会議系の右翼人士が関わりを強めるにつれ、ひたすら北朝鮮への憎悪を煽って、経済制裁強化の一本槍、もう少しで北の王朝は崩壊するから頑張るんだという路線に走り、家族会もそれに引っ張られていく。政治はそれに付いていくしかなく、皆で青リボンのバッジを胸につけて「やっているフリ」だけして実は何もやらないという退廃が蔓延する。

これを北朝鮮側から見れば、早く国交正常化を進めたいという(彼らにしてみれば!)善意からやったことが、こんなふうに悪様に言われて、「嫌ならもういいよ」という風に心を閉ざしてきたのだろう。こうして、最初の「5人生存、8人死亡」という通知で、北としてはその時点での精一杯を絞り出したつもりでいたところが「嘘つき」と言われて、最初から断層にはまり込んでしまったというのが、客観的に見た日朝関係の悲劇である。《以下、次号に続く》

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年6月8日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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