習近平がわざわざ北朝鮮に足を運んだ理由は「米朝首脳会談」という“特効薬”実現のためだ

 

トランプ訪中の流れと異なる最近の在韓米軍の動き

米朝関係が落ち着くことは中国にとっての国益であると同時に、トランプ大統領にとっても中間選挙に向けて有権者にアピールできる外交的なポイントとなる。

もちろん北朝鮮にとっても米朝首脳会談は実現したい目標の一つだ。北朝鮮がその可能性を視野に入れ、アメリカやトランプ大統領を直接批判することを慎重に避けているとの指摘もある。

一方で不安材料も多い。

中国から見たとき、特に気になるのが最近の在韓米軍の動きだ。今年2月には黄海上空で訓練中の在韓米軍機が中国軍機とにらみ合う事態が起きている。この問題をめぐっては在韓米軍のゼイビア・ブランソン司令官と韓国国防相との間で「謝罪した」「していない」という応酬も露見し、李在明政権と在韓米軍との不協和音も話題となった。

今年5月末には、やはりブランソン司令官が、「中国の立場からすれば、韓国はアジアの中心に位置する匕首(短剣)」と公の場で発言し物議をかもした。わざわざ90度回転させた地図を示し、在韓米軍の中国抑止の有効性にも言及したのだ。

北朝鮮もこの発言には素早く反応した。

朝鮮中央通信は、国際問題評論家キム・ミョンチョル氏の寄稿を通じ〈ブランソン司令官の発言は単なる失言ではなく、韓国を地政学的な道具として利用して中国を包囲・抑止しようとする歴代米政権の計算された戦略的視点をそのまま反映したもの〉(『中央日報』)と評したと報じた。

こうした在韓米軍の動きは、明らかに5月中旬のトランプ大統領の訪中の流れとは異なることから、李政権にも戸惑いが広がったと伝えられている。

韓国メディアの『ハンギョレ』は社説で〈「韓米同盟の健全な発展をけん引」するためにも、可能な限り早期に「戦時作戦統制権の移管を支障なくすみやかに進行」せざるを得ない〉と呼び掛けた。

つまり在韓米軍の挑発的な言動に不安を覚え、「戦時作戦統制権の移管を支障なくすみやかに」と呼び掛けたのだ。

これも頭の体操だが、もし今アメリカ国内に意見の対立があり、トランプ政権の対中融和、在外米軍の縮小という方向に不満を抱える勢力があるとしたら、米中や米朝間の接近を何らかの形で阻止したいと、何かを仕掛けてくるかもしれない…。

習近平氏がわざわざ北朝鮮に足を運んだ意味が朝鮮半島の安定であれば、その特効薬としての「米朝首脳会談」を早期に実現させるという狙いが背後にあったとしても、少しも不思議ではないのだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年6月14日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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