「今までで一番成功したG7」は本当か?エビアン・サミットが露呈させた、もう隠せないトランプと欧州の決定的な亀裂

 

戦争が終わっても安心は戻らない

米・イラン間の覚書に基づく交渉が順調に進み、仮に最終的な合意が成立したとしても、 それですべてが解決し、元通りになるということではありません。

【ホルムズ海峡の自由な航行が再開しても、すぐには元には戻らない】というのが現実です。

停戦が成立すると、軍事的な危機は去りますが、世界経済が直ちに正常化するわけではありません。

2月28日以降の一連の戦闘とホルムズ海峡の完全閉鎖を通じて、世界経済は 【中東発の安価なエネルギー】と【中東をハブとする多国籍間のサプライチェーン】という 2つの成長モデルを損ないました。

その結果、仮に軍事的な危機が去っても、イスラエル、アメリカ、 そしてイランによって破壊された周辺国のインフラ修復にはかなりの時間を要することが分かっています。

例えば、カタール政府によると、紛争前のレベルまでLNG生産と輸出を復旧させるには 少なくとも3年から5年を要するとのことですし、UAEのアルミ生産も、 紛争前のレベルまで完全復旧させるには最大で1年はかかるという現実が示されています。

結果、原油・天然ガス価格は高止まりし、タンカー保険料などの地政学的コストの上乗せが常態化することで 輸送コストも高騰したままの状況で、かつイランとオマーンによる“通行料”の徴収の可能性も否定できない状況が続いています。

そして、仮に軍事的危機が去ったとしても、機雷の除去、航路の安全確認、保険料の正常化には長い時間が必要です。 そして、たとえ実際に機雷が存在しなくても、 『イランが敷設した機雷がまだ存在するかもしれない』という認識だけで市場は敏感に反応します。 皆さんもよくご存じの通り、国際物流は心理によっても動くのです。

戦争が終わることと、安心が戻ることは別の話です。 仮に戦争が終わっても、そこには 【不確実性のコスト】という新しいリスクが生まれてきます。

日本企業にとって特に重要なのは、エネルギー価格だけではありません。 ホルムズ海峡は日本のエネルギー輸入の約8割が通過する要衝です。 危機が一時的に収束しても、一度、イランがホルムズ海峡の完全閉鎖を武器として用いたという前例が存在するため、 『同様の事態がいつ再び起きるかわからない』という認識が広がれば、 企業は恒常的なリスクプレミアムを物流コストに組み込まざるを得ません。 原油価格の変動には慣れた企業も、 “いつ再び閉まるかわからないホルムズ海峡のリスク”を管理するノウハウはまだ持っていません。

物流費、保険料、輸送時間の増加といった“見えにくいが大きな影響を与えるコスト”が、 日本の製造業・貿易業の競争力に与える影響は、原油価格の一時的な高騰よりも深く、長く続く可能性があると懸念しています。

さらによく見落とされがちなのが、ホルムズ海峡の完全閉鎖に伴って各国および企業が取った代替ルートへの移行コストです。 スエズ運河を経由しないルートへの転換、アゼルバイジャンからの輸入、またLNG調達先の多様化といった対応が進みましたが、 それには当然、これまでにはない追加的なコストが伴います。

中東危機が残した最大の傷跡は、エネルギー価格そのものではなく、 【不確実性のコスト】という形で、日本企業のバランスシートに長く刻まれていくかもしれません。

米・イラン間の“イランの核を巡る争い”の激化と“イスラエルの核を黙認する姿勢”は、 1970年以降、NPTの下で続いてきた“核不拡散レジームの終焉”に繋がる恐れもあります。

例えば、サウジアラビアは公然とイランとイスラエルに対抗して核保有の可能性に言及し始めていますし、 目をアジアに向けると、北朝鮮が核戦力の拡大を公然と進める事態が存在します。

イランの核開発問題は、イスラエルの核保有という“公然の秘密”に行きあたり、 国際社会の大きな矛盾を露わにする材料になります。

スウェーデンのSIPRI (ストックホルム国際平和研究所)の統計によると、 イスラエルは約90発の核弾頭を保有すると分析されていますが、 イスラエルはNPTに加盟しておらず、欧米もイスラエルの核兵器保有を事実上黙認していることから、 実質的にイスラエルの核兵器は野放し状態になっており、 これが核不拡散体制の大きな矛盾を再度、クローズアップする結果になっています。

イランに【壮絶な怒り作戦】を仕掛けたトランプ大統領は、経済秩序の回復や世界に広がる核リスクの払拭が不発に終われば、 その作戦は【壮絶な失敗】として歴史に刻まれることになってしまいます。

その観点から、今回の米・イラン間の覚書合意に基づく“詳細な和平交渉”の成功と、 合意内容の確実かつ検証可能な実施が必須と言えます。

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