「今までで一番成功したG7」は本当か?エビアン・サミットが露呈させた、もう隠せないトランプと欧州の決定的な亀裂

 

米・イラン合意は「戦争管理」に過ぎない

次に、G7サミットでも議論の話題になりましたが、今週、最大のニュースと言えば、 米・イラン間での戦争終結に向けた覚書の合意です。

ここで見ていかなくてはならないのが、【米・イラン戦闘終結合意は歴史的転換点なのか】という大きな問いです。

パキスタンやカタール、オマーンなどの仲介により交渉が進められ、14日には米・イラン側が覚書に電子署名を済ませ、 両国代表は6月19日にスイスのビルケンシュトックで署名式に臨むことになっています。 (実際には両首脳が18日に電子署名を済ませたとのことです。)

いろいろな報道があり、正式な発表が米・イラン政府から行われていない状況ですので、詳細に変更があるかもしれませんが、 様々な情報源から得た情報を包括的に整理すると、合意の主な内容は以下の通りです。

【6月19日の正式な署名から60日間の停戦延長(双方が合意すれば、延長も可能)】、 【アメリカは海上封鎖を解除。最終合意30日以内に周辺から米軍が撤退する】、 【イランがホルムズ海峡の商船航行を30日以内に戦前の水準に回復させる】、 【アメリカなどが3000億ドル規模のイラン復興・開発計画を策定】 【ホルムズ海峡の通航再開(イランによる通航料を徴収の有無・可否については不明。 取りあえず交渉が続く60日間は無償と言われているが、その後は、イランは通行料の徴収の可能性に言及している。】、 【米国による対イラン海上封鎖の解除と石油販売の容認】、 【イランによる核兵器開発放棄の再確認と濃縮ウランの取り扱いについての交渉への応諾】、 【対イラン制裁・在外資産凍結解除の協議開始】。

1979年のイラン革命以来、敵対関係を続けてきた両国が、108日間の戦闘の末、 包括的な政治合意へ踏み込んだ意味は決して小さくありませんが、 私は、ここで冷静に現実を見なければならないと考えています。

今回合意に至った覚書と、これに続く様々な交渉プロセスの正体は、 【和平の実現】ではなく、【戦争管理】に過ぎないという現実がそこにあります。

なぜそう言い切れるのか。 理由は三つあります。

一つ目は、【合意の「賞味期限」の短さ】です。 “60日”という期間は、本格的な外交交渉を進めるには極めて短いと言わざるを得ません。

これまでの“協議”でも、イランの核を巡る協議は難航しており、この60日で両国の根本的な利害対立が、 相互受け入れ可能な形で解消されるとは考えにくい点を見落としてはなりません。

イランはこれまでにも“ウラン濃縮交渉に応じる”としながらも、核問題を先送りしてきた経緯があります。 これまでの“歴史”に照らし合わせて考えると、今回の“戦闘停止の覚書”という“合意”は、 イランの核を巡る問題を解決したのではなく、互いに一旦戦闘を停止することを優先したため、 解決を先送りした可能性が高いと考えられます。

例えば、イランが保有する濃縮ウランについては、 『イラン国内での“ウランの希釈”を含む処理を米国が受け入れた』とする見解が出ていますが、 昨年6月の12日戦争時に米・イスラエルの合同作戦でナタンズなどの国内の核処理施設を空爆して“損傷させた”際、 事前にイランは濃縮ウランや遠心分離機などをイラン国内各地に隠していると言われている状況下で、 【全て“処理”したか否か】の検証に対する信憑性は、果たして担保できるような“合意”を60日で詳細まで詰めて、 実施可能な形にまで持っていくのは至難の業だと考えますが、どうでしょうか?

二つ目は、【イスラエルがこの枠組みの外にいること】です。 ネタニヤフ首相はアメリカとイランの合意について『詳細は知らない』とした上で、 『ヒズボラに対するイスラエルの行動の自由を維持することに制限を設けるものではない』と明言し、 すでに米・イラン間での覚書の重要な要素に対して異なる認識を持っていることを明確に示しています。

これまでに触れたように、イスラエルはイランとの対立を国家存立に関わる問題、 そして国民の生存確率に対する最大の脅威として認識しており、 米・イランの合意にレバノン戦線での戦闘停止(それも恒久停戦)が含まれること自体、 絶対に受け入れがたいとする論理も持っており、すでに連立政権を組む極右のベングビール氏なども不満を公言して、 米・イラン間の停戦覚書は受け入れ不可であるとの姿勢を明確にしています。

それは、イスラエルにとって交戦しているのはイランではなくヒズボラという“テロ組織”であり、 その上位にイランを据えて交渉し、自国の国家安全保障に対する脅威への対応を (イスラエルが協議に加わっていない)米・イラン間の話し合いの内容で決められ、 押し付けられるという構図自体が問題なのです。

6月19日の米・イラン間の覚書の署名と60日間の交渉のスタートというプロセスは止められないと考えますが、 今週末以降、イスラエル政府とネタニヤフ首相がどのような対応をするのか、非常に注意深く見ておく必要があります。

三つ目は、【合意の文言に双方が異なる“読み”(認識)をしていること】です。 例えば、イランメディアや、アルジャジーラのような中東地域の報道は、 イラン政府高官の話として、『合意後もホルムズ海峡はイランの管轄下に置く』と主張しており、 『草案の一部で双方の溝は埋まっていない』とも伝えています。

それに対し、アメリカ政府は、あくまでもトランプ大統領の言葉ですが、 『ホルムズ海峡の完全閉鎖は解かれ、商用船舶の通航は再開されることで合意した』と述べており、 それが今、各国に“安心”を提供し、株式価格の急騰に繋がっていますが、安心するのはまだ早いというのが、私の読みです。

今回の“覚書”を通じ、米・イラン間で言葉の上では合意していても、 重要な内容に対する解釈が食い違っているという状況は将来の紛争の火種そのものです。

そして、さらに“アメリカとイランが合意”しても、イスラエルとヒズボラが合意しているわけではなく、 ここに現在の中東の根本的な難しさがあります。

例えば、ヒズボラ幹部は『イスラエルによる対レバノン攻撃が停止されない限り、イランも合意しないだろう』 との見方を示しており、イランの革命防衛隊幹部もまた、同様の見解を示しています。 イスラエルも覚書の内容に大きな不満を示していることと、ヒズボラ攻撃作戦の継続に対する国内の高い支持を背景に、 この覚書から距離を置き、独自の行動を取る可能性は高いと懸念しています。

状況はまだまだ予断を許しません。

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