【3.去りゆく覇権-イラクからの撤収と中東秩序の空白】
9月30日、米国防総省は、米軍主導の有志連合のイラクからの撤収が完了したと発表しました。最後に去ったのは、北部エルビルの基地にいた米軍と有志連合の約1,500人で、過激派組織「イスラム国(IS)」の掃討を掲げた「生来の決意作戦(Operation Inherent Resolve)」は、12年で幕を閉じました。対ISの任務部隊はヨルダンに移り、シリアには数百人の米兵が残るとのことです。
私は、イラク戦争後の混乱のなかで、国連の側からバグダッドの現場に関わりました。あのとき、米軍の存在はイラクの人々にとって、治安の支えであると同時に、反発の的でもありました。
有志連合の対IS任務が終わった後のイラクは、米国とイランへの複数の依存が併存する、危うい均衡の上に立っています。原油の輸出代金は米国のニューヨーク連邦準備銀行の口座を通る一方、電力や天然ガスの多くはイランからの輸入に頼ってきたからです。
前号で触れたとおり、サウジアラビアの東西パイプラインへのドローン攻撃について、サウジ当局はイラクから飛来したものだと非難し、イラク政府も発射地点が自国の南部だったと認めました。「撤収完了」という発表と「治安の空白」という現実の間に溝ができれば、その溝に最初に流れ込むのは武装勢力です。
【3-1.エコノミスト誌の問い:米国は中東から去るのか】
英エコノミスト誌は今週、イランとの戦争がどのような形で終わろうとも、それは米国が中東での覇権をついに断念する瞬間になると論じました。
1世紀前に欧州列強がオスマン帝国を解体して以来初めて、中東全体の秩序が遠方から押し付けられる時代が終わりを告げるというのです。なかなかショッキングな見立てです。
その兆候の一つとして同誌が挙げたのは、米国がフーシ派への攻撃でサウジアラビアに加わるのを拒み、代わりにサウジアラビアの背後でフーシ派と協議したことでした。
ロイター通信も、9月中旬にオマーンの首都マスカットで米国とフーシ派が接触し、フーシ派が米国やイスラエル、商船を攻撃しないと約束する一方で、サウジアラビアの船舶は対象外としたと報じています。これは単独の報道ですが、事実であれば、米国は同盟国の戦争には加わらず、自国の安全だけを交渉で確保したことになります。
もう一つの兆候は、中東の米軍基地がドローンや安価なミサイルにいかに脆弱かが、イランとの戦争で明らかになったことです。
同誌はさらに、米国は今や巨大な石油輸出国であり、湾岸の産油国の最大の顧客は中国だとして、米国の中東政策の最大の受益者は中国だと指摘しました。
では、米国の空白を埋めるのは誰なのでしょうか。
同誌が挙げたのは、イラン、トルコ、イスラエルという、いずれもアラブではない三つの国で、敗者となるのはアラブ諸国だとしています――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』2026年10月2日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録ください)
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11月3日の米国中間選挙まで約1カ月となった今、今号でお伝えした米イラン交渉や米中関係の行方を考えるうえでも、お役に立てる内容だと思います。
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