ガチ切れの本妻に完敗。遺言があっても内縁の妻が相続ゼロになったワケ

shutterstock_1102489202
 

「死」とは、誰にでも平等にやってくる決して避けられないものですが、その日はいつどのような形で突然やってくるのか誰にも分かりません。そこで、自分がいつ死んでも良いように、家族や親族らに「遺言」を残しておきたいと考える人は多いのではないでしょうか。無料メルマガ『10年後に後悔しない最強の離婚交渉術』の発行者で、開業から6年で相談7,000件の実績を誇る行政書士の露木幸彦さんは、実際に依頼された「遺産相続」に関する相談をもとに、離婚が成立していない本妻と30年連れ添った内縁の妻の間で生じた、「遺言」と「遺産相続」のトラブルについて解説しています。

たとえ「遺言」があっても相続できない? 内縁の妻と本妻の間で起きた遺産相続トラブル

このコロナ禍では誰がいつウイルスに感染し、重症化し、命を落としてもおかしくありません。そんな中、誰しも一度は「遺産相続」のことが頭をよぎったことでしょう、「万が一のことがあったら」と。

残された遺族に負担をかけたくない、相続で揉めて欲しくない、葬儀を円滑に進めて欲しい。心配事の中身は人それぞれですが、基本的には新型コロナ以外の病気も同じです。さらに、年を重ねれば重ねるほど不慮の死を遂げる確率は上がります。

だからこそ「遺言」という形で、せめて生前の気持ちを残したいところ。しかし、最後まで遺言の通りに遺産分割が行われたのかを見届けたくても、本人はすでに亡くなっているため、それは不可能です。どうしても遺言の通りの分割をおこないたいのであれば、遺言の運用は執行人(相続を取りしきる人)に託すしかありません。

しかし最近は、生前の人間関係が災いして、故人の遺志を尊重しない遺族が増えているような印象です。遺言がある場合の相続とは、誰かが得をすれば、その分、誰かが損をするというゼロサムゲーム。すべての相続人が遺言に従ってくれれば良いのですが、「損する遺言」を目の当りにした場合、その心中は穏やかではありません。遺言の通りに遺産分割を行うのは執行人の責任ですが、相続の結末には執行人と反対者の力関係が影響します。

例えば、執行人が反対者より立場が悪かったり、気が弱かったり、声が小さかったりしたら、どうなるでしょうか? 反対者に押し切られ、遺言の内容が捻じ曲げられ、故人が望まざる結果に至ることが少なくありません。何が明暗を分けるのか、今回は残念ながら遺言が守られなかったケースを取り上げたいと思います。

乗り込んできた本妻、認知症の進む内縁の妻……遺産相続の行方は?

「遺言を作りたいんですが、本人は施設に入居中です。それでも大丈夫ですか?」

そんなふうに依頼をしてきたのは高城紀夫さん(仮名、88歳)。筆者は施設を訪ねたのですが、施設の一室にいたのは老男(飯尾一成さん。仮名、88歳)と老女(高城節子さん。仮名、86歳)。紀夫さんは老女の兄でした。老男老女2人は一見すると「夫婦」ですが、実際には内縁関係。30年前に一成さんが駆け落ち同然で家庭を捨てて家を出て、節子さんと一緒になったそう。2人は30年間、夫婦同然の生活を送ってきたのです。そして3年前には自宅の売却金を元手に、2人そろって施設に入居したそう。

しかし、一成さんは未だ本妻との離婚が成立しておらず、戸籍上の妻は節子さんではなく本妻のまま。節子さんの存在は一成さんにとって「内縁の妻」なのですが、法律上、内縁の妻に法定相続権(法律で定められた相続権)は認められていません。そのため、一成さんに万が一のことがあった場合、節子さんは何も相続できない可能性があります。

そのため、内縁の妻が遺産を相続するには遺言が必須です。とはいえ、一成さんは捨ててきた家族(妻と長女)には罪悪感があるといいます。さすがに「節子さんへ全財産を渡す」という内容には抵抗がある様子。本妻3分の1、長女3分の1、そして節子さん3分の1、そして節子さんの兄・紀夫さんが執行人という形の遺言を残すことを望んでいました。

print
いま読まれてます

  • ガチ切れの本妻に完敗。遺言があっても内縁の妻が相続ゼロになったワケ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け