ガチ切れの本妻に完敗。遺言があっても内縁の妻が相続ゼロになったワケ

 

遺言を用意した直後におとずれた突然の死

そうして、一成さんは公正証書遺言の手続を無事、終わらせることができました。一成さんは高齢のため、立ったまま靴の着脱をするのも難しく、椅子に腰をかけて靴を脱いだり履いたりしていましたが、トイレには自力で行き、用を足して戻ってくることができるほどには元気でした。しかし、遺言を残したことで気が緩んだのでしょうか? 手続きを終えた5日後に突然倒れて、救急車で搬送され、そのまま帰らぬ人に。筆者が一成さんに会ったのは2回だけですが、どんな事情でも依頼者が亡くなるのはショックなことです。

一方の節子さんは認知症の症状が進み、判断能力が著しく低下しており、日常生活にも支障が出ていました。そのため昨年、兄・紀夫さんは家庭裁判所へ後見開始の申立をし、節子さんの成年後見人に指定されたそうです。紀夫さんは節子さんに代わって一成さんの家族へ連絡をしたのですが、数日後、戸籍上の妻(本妻)と長女が紀夫さんの自宅に乗り込んできたのです。

「あの人に主人の遺産を渡すことはできない」本妻の言い分にたじろぐ執行人

「生前は主人がお世話になりました。主人の最後を看取れなかったのは『あの人のせい』ですよ。2人のことは今でも許していません。主人の遺産をあの人に渡すなんて納得いきませんから!」

と、本妻は恨み節をぶつけてきたのですが、ここで言う『あの人』が節子さんのことを指しているのは言うまでもありません。節子さんのせいで向こうの家族は苦しんできたこと、夫であり父であった一成さんが出てゆき、「普通の家族」でいられなくなったことを実感せざるを得なかったのです。 

紀夫さんは「すみません。妹が迷惑をかけまして」と頭を下げるので精一杯。そして本妻は内縁の妻(節子さん)には相続権がないことを再確認するよう迫ってきたのです。

それは「(節子さんは)一切の相続権を放棄する」という遺産分割協議書。これに署名するよう求めてきました。成年後見人は本人に代わって署名することが認められています。紀夫さんが署名しても、それは節子さんが署名したのと同じこと、相続権の放棄は有効になります。

もちろん、遺言がなければ本妻の言う通りなのですが、今回はその限りではありません。紀夫さんは遺言の存在、妹・節子さんにも3分の1の相続権があることを示しつつ、毅然とした態度をとり、本妻からの申し入れを断れば良かったのですが、「内縁の妻の兄」ではあまりにも弱い立場です。

そのため、紀夫さんは本妻が用意してきた遺産分割協議書に後見人として署名するしかなかったのです。さらに本妻は「(遺産を)すべて出しなさいよ!」と要求。紀夫さんは一成さんから預かってきた通帳や証書、証券を目の前に置いたのです。そうすると本妻は「うちのものなんだから!」といいながら通帳等をすべて持っていってしまったのです。 

print
いま読まれてます

  • ガチ切れの本妻に完敗。遺言があっても内縁の妻が相続ゼロになったワケ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け