勃発から160日を超えるも、未だ出口の見えないウクライナ戦争。西側諸国による厳しい対ロ経済制裁も長期に及び、各国とも自国経済へのダメージが顕著となっています。「自らの生活を犠牲にしてまで制裁を続ける意義があるのか」という声も各国国民から上がっていますが、ここで制裁を緩めるべきではないとするのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で今回、ロシア政府高官らの発言等を紹介しつつ、制裁によりプーチン大統領の蛮行を止めなければならない理由を解説しています。
プーチンが欲しいもの=北海道、アラスカ、ウクライナ全部
今回は、読者のYさんからのご質問にお答えします。
北野先生
いつもメルマガを楽しみにしております。読者のYと申します。ロシア制裁で世界的に経済が苦しくなっていますが、そこまでしてロシアを制裁しなければならないのでしょうか。メルマガか雑誌の投稿などで触れていただけると嬉しいです。
確かに世界経済が苦しくなっています。アメリカや欧州では、インフレ率が8~9%まで上がっている。アメリカの実質GDP成長率は4~6月期、前期比で0.9%減少。中国の実質GDP成長率は4~6月期、前年同期比で0.4%増にとどまりました。中国の場合、ロシアのウクライナ侵攻とはあまり関係なく、コロナ問題(上海のロックダウンと、北京の行動制限)と不動産バブル崩壊が原因です。
一方、日本の4~6月期の数字はまだ出ていません。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの予想では、前期比+0.8%、年率換算+3.4%だそうです。ずいぶんいい数字が期待できそうですね。
しかし、皆さんご存知のように懸念もあります。一つは、ウクライナ侵攻による、エネルギー価格、食糧価格の値上がり。それに伴うインフレ。もう一つは、新型コロナ第7波。さらに、「サル痘」で、NY州に非常事態宣言がでました。今後、「サル痘パンデミック」が起これば、2020年の悪夢が戻ってきます。
それでもロシア制裁は必要?
世界を苦しめているインフレ。ロシアによるウクライナ侵攻と、対ロシア制裁で起こっている。それで読者のYさんは、
ロシア制裁で世界的に経済が苦しくなっていますが、そこまでしてロシアを制裁しなければならないのでしょうか。
という疑問を持たれたのです。こういう疑問を持っているのは、Yさんだけではありません。ロシアへのエネルギー依存度が高い欧州、特にドイツ、フランス、イタリアなどでは、よく聞かれる意見です。
どうなのでしょうか?そもそもなぜ、ロシアに制裁しなければならないのでしょ
うか?ロシアが国際法を破って、主権国家ウクライナを侵略しているからです。
これに関して、ロシア擁護派もいて、「一方的にロシアだけが悪いとはいえない」などといいます。その主な理由は、
- 冷戦終結時16か国だった反ロシア軍事同盟NATOが、30か国まで拡大している。これは、ロシアにとって明白な脅威である
- ウクライナ軍は、東部ルガンスク、ドネツクのロシア系住民に残虐行為をしていた、
などです。長くなるので、詳細な説明は省きます。しかし、【国際法的に】解釈の余地はありません。国際法には、【合法的戦争】と【非合法的戦争】がありま
す。
【合法的戦争】とは、
1.自衛戦争
「攻撃されたから自衛権を行使した」
たとえば、アメリカのアフガン戦争は、こういう解釈でした。
2.国連安保理が認めた戦争
たとえば、1991年の湾岸戦争がこれに当たります。
では、ウクライナ戦争はどうでしょうか?
ウクライナはロシアを攻撃していません。だから、これは自衛戦争ではありません。国連安保理は、この戦争を認めていません。ですからロシアのウクライナ侵攻は、解釈の余地なく完全に国際法違反の侵略戦争です。この事実を否定できる人は、世界に一人もいません。これを見逃してしまうと、人類が戦後築き上げてきた世界秩序が崩壊します。