中村玉緒さんは、天真らんまんなキャラクターで広く親しまれた一方、名優たちに囲まれた波乱の人生を歩みました。著書『あほな女』には、夫・勝新太郎さんとの夫婦生活や家族とのエピソード、そして彼女ならではの機知と強さが率直に綴られています。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では辛口評論家として知られる佐高信さんが、中村玉緒さんの素顔と、唯一無二の夫婦関係、人間的な魅力を振り返ります。
追悼譜 中村玉緒
玉緒の『あほな女』(廣済堂文庫)を求めていたのは、彼女への関心というより勝新太郎への興味からだろう。
この人以外は勝新の妻はつとまらなかったと思われる。
「玉緒は8歳も兄とは差がありますが、扇雀より意地が強いところもあります。
扇雀は男の子よってに、将来ともに役者にしようと考えていましたが、玉緒はさせるつもりはありませんでした」
父親の中村鴈治郎がこう回想しているが、玉緒は京都女子学園に行っている間も女優にしてくれとせがみ、承知しなかったら、食事も摂らずに部屋に閉じこもってストライキを続けたとか。結局、親の方が折れる。
そして『不知火検校』で共演した二枚目スターの勝と結婚することになった。
玉緒が勝に出した条件が2つある。
「よそで子供を作っても、認知だけはしないでください」
「女のお弟子さんを取らないでほしい」
父の鴈治郎が弟子との間に子供を作ったことが玉緒はイヤだった。
玉緒によれば、「亡くなったお姑さんがまたおもしろい人」で、ある時、こんなことを言われた。
「玉緒さん、真粧美を1人で若山のところにやらないでくださいね」
真粧美は勝と玉緒の娘、つまり勝の兄の若山富三郎にとっては姪である。
「女性に“優しい”自分の息子を、頭から信用していない」と玉緒は書いている。
この姑は、玉緒と若山が一緒の仕事となると、こう念を押した。
「玉緒さん、絶対に若山と同じホテルに泊まらないでくださいね」
勝はこの兄を「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と言って慕った。
勝はライバルの市川雷蔵に対しては嫉妬せず、玉緒が雷蔵と一緒に映画に行くのを認めていたという。
『大菩薩峠』の机竜之助を雷蔵が演じ、玉緒はお浜役でブルーリボン助演女優賞をもらった。
その時、雷蔵から玉緒に人形が届いた。
「お浜殿へ、竜之助」という添え書き付きである。
勝と雷蔵は“ライバルを超えた兄弟愛”で結ばれ、雷蔵が亡くなると、勝は「心を開いて相談できる友人を失った」と玉緒は気遣っている。
勝が玉緒を連れて行き、ある席で玉緒が歌い出した。
それを見ながら勝が「いい女だねぇ、ダンナがいいんだね」と聞こえよがしに言う。
それに対して玉緒が、座頭市のセリフで「イヤな渡世だなあ」とかぶせる。
さすがの応酬だが、明石家さんまとのヤリトリなどでも、玉緒は非凡さを発揮していた。
決して「あほな女」ではなかった。
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image by: 東映京都俳優部, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons









