エネルギー問題は世界中の「悩みの種」です。そんな中、世界的エンジニアでメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者・中島聡さんが、かつてイノベーションのネタで話した「太陽光パネルプリンタ」に、実用化の芽が出始めました。以前は「夢物語」でしかなかったものが「現実」になり始めた背景を、自身のメルマガで語っています。
太陽光パネルプリンタ
私は4年ほど前に、日本のある複合機メーカーの若手エンジニア向けのセミナーを開いていたことがありますが、その時に、ブレストのネタとして私が挙げたのが、太陽光パネルプリンタでした。
太陽光パネルの値段は下がってきたとは言え、これまで通りの「工場でパネルを生産して、そのパネルを発電する場所まで運んで設置する」というやり方でコストを下げるには限度があります。
もし、本気で世界が必要とするエネルギーの大半を太陽光発電で賄おうとするのであれば、必要に応じて安価に現地生産できる仕組みを作るしかないと私は考えています。
そこで私は、純粋にニーズの面から「インクジェット・プリンタぐらいの手軽さで、誰でもどこでも安価に太陽光パネルを印刷できるプリンタを作って欲しい」という私の夢をイノベーションのネタとして提供したのです。そんなプリンタさえ作ることが出来れば、例えば、アフリカの僻地にある村にプリンタと素材さえ送れば、(送電線など張らずに)電気を届けることができるようになるのです。
セミナーの目的は、日々の仕事に追われて頭が固くなってしまっているエンジニアの頭をほぐすことにあったので、あえてこのぐらい現実味のないものの方が良いと考えて、このネタを選んだのです。イノベーションには、発想の飛躍が必要で、そのためには「実現可能かどうか」を抜きにして、まずはニーズの方からスタートするのが良い、という意味も込めたつもりです。
当時は、全く現実味がなく、あまり議論も発展しませんでしたが、ちょうど4年経った今、こんな記事が目に入ってきました。
ペロブスカイト(perovskite、CH3NH3PbI3)という半導体を使った太陽光発電ですが、溶液と混ぜて「塗る」ことにより多結晶の薄膜を作ることができ、光電変換効率も既に20%を超えるところまで来ているのです。
ペロブスカイトが太陽電池の材料として使えることは2009年から知られているそうですが、当初は変換効率が低く、あまり注目されていませんでした。しかし、2012年以降、急速に変換効率の改善が進み、研究者の間での注目を集めているそうです。
ちなみに、上の記事では韓国化学研究所が今年になって達成した20.1%が最高と書かれていますが、ネットで検索したところ、スイスの研究チームが、ペロブスカイトの薄膜を二枚重ねることにより20.5%の変換効率を実現しており(参照:Higher solar cell efficiency thanks to perovskite magic crystal)、30%越えすら不可能ではないと書いてあります。
ここまでくれば、さらなる変換効率の向上は研究者に任せ、「いかに安価に製造するか」という実用化への投資をすべきタイミングだと思います。工場での大量生産技術も重要ですが、現地でのオンデマンド生産を可能にする、太陽光パネルプリンタの実用化は是非ともやるべきだと私は思います。
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