なぜ、アメリカ大統領選はこんな茶番劇になっているのか?

 

ネオコン勢力の策動

しかし、言うは易し行うは難しで、ネオコン、共和党右翼、草の根のキリスト教右派=ティー・パーティ、その背景にある軍産複合体など、一言でまとめれば「冷戦ノスタルジア」的な守旧勢力の激しい反動に直面する。

実はブッシュ子政権を取り仕切ったのはネオコンで、彼らは「全世界の独裁者を打倒せよ」という世界永久民主革命論とも言うべき過激思想の持ち主で、米国内のユダヤ・ロビーを通じてイスラエルの右翼政権とも繋がっている。また共和党右翼を代表するのはジョン・マケイン上院議員で、彼もまた反共・反独裁、反イスラム、親イスラエルでネオコンと通底している。さらにティー・パーティ的なキリスト教右派は、アメリカ式の自由と民主主義を世界に布教するのは米国人に神から与えられた使命であるという強烈な宗教的情熱を持っていて、容易にネオコンと一致する。これらの冷戦的勢力を煽りながら世界各地で戦争を引き起こして武器を売り込もうとしているのが軍産複合体である。この冷戦ブロックはまことに強力で、米国が21世紀に適合しようとすることを妨げている。

ネオコンは、イスラエルの諜報機関がねつ造した「サダム・フセインは大量破壊兵器を隠していて、それを今にもテロリスト集団に渡そうとしている」という偽情報をブッシュに吹き込んで米国をイラク戦争に引きずり込んだ。それ以前の90年代末以降、旧ユーゴスラビアのミロシェビッチ大統領はじめグルジア、ウクライナ、ベラルーシ、キルギスなど旧ソ連東欧圏の国々で「民主化」運動を煽り独裁政権打倒を策したのも、またチュニジアを発端に北アフリカから中東に広がった「アラブの春」に乗じて市民の民主化デモに介入して資金と武器を供給して内戦に転化させ、リビアのカダフィ大佐の虐殺、エジプトのムスリム同胞団政権の転覆、シリアのアサド政権の打倒の仕掛けなども皆彼らの仕掛けだった。特に目立つのはマケインの活躍で、彼はリビアにもウクライナにもシリアにも単身で飛び込んで、いわゆる反体制勢力と接触し、資金と武器を供給して独裁者に立ち向かわせるルートを設営した。

シリアでは、アラブの春の影響で2011年春に始まった市民の政治的民主化を求める、どちらかというと穏健な(必ずしもアサド政権打倒を目指しているのではない)デモが始まって、当初はアサド大統領側もそれなりの民主的改革案を次々に打ち出して対話を試みていたものの、そこへイスラエル右翼と結んだネオコン&マケインが介入して反政府勢力に資金と武器を供給してアサド打倒の内戦を挑発した。フセインやカダフィやエジプトの同胞団やアサドが消え去ってそれら各国が国家崩壊状態に陥ることは、誰よりもイスラエルにとって居心地のいい中東状況を作り出すことになるわけで、そのような中東の全般的な秩序破壊に米国を引き込んでその力を利用することがネオコンらの狙いだったのである。

オバマもこのネオコンの策動に危うく引っかかりそうになった。かねてからアサド政権に対する空爆を辞さないと言っていたオバマは、同政権が自国民に対して化学兵器を使用して百数十人を殺害したとの情報に猛り狂って空爆に踏み切ろうとした。ところがこれは、ブッシュをイラク戦争に引き込んだのと全く同じパターンのイスラエル発ネオコン経由の偽情報で、それを寸前のところで止めたのはロシアのプーチン大統領だった。プーチンはオバマに電話で「こんなものに引っかかったら、あなたはブッシュの二の舞になる」と言い、それでオバマが辛うじて思いとどまると、ネオコンや共和党右派は大統領を「弱腰」と罵倒し、全マスコミもそれに調子を合わせてオバマを貶めた。

アサド政権が化学兵器を蓄えていたのは事実で、それはイスラエルの核兵器に対抗するには、いざという時には化学兵器で反撃するしかないという「貧者の核兵器」という発想からのことである。その化学兵器の一部が内戦の中で米国に支援された反政府勢力の手に落ちて、彼らがそれを使用するという事態が生じたので、アサド政権は国連に調査団の派遣を要請した。その調査団が現地に到着した翌日に「化学兵器を使ったのはアサド政権側だ」という偽情報が流され、オバマはアサド爆殺を決断しかかったのだが、アサドが自分で化学兵器を使っておいて国連を呼び込むはずはないではないか。プーチンはその経緯を全部知っていてオバマを制止し、その後直ちにアサド政権が保有している化学兵器を国連管理下で国外に搬出するという作戦を提案し実行してネオコンとイスラエルの陰謀を封じ、オバマを救った。

結局、いまのシリアとISをめぐる大混乱の大元はここで、いわゆる反政府勢力を助けてアサド大統領という独裁者を倒すのが先だというネオコン路線に乗るのか、シリア政府とその軍を助けてISを潰すのが先だというプーチンの戦略に従うのかという問題であって、これは後者を主張しているプーチンの方が正しい。ここ数日に達成されつつあるシリア内戦停止の米露合意は、オバマがようやくネオコンの罠から脱して正気を取り戻しつつあることの証左である。

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