不可解な設問、的ハズレな指導要領。ヒドすぎる全国学力テストの実情

 

この設問が実は最も問題あり!

■中学A・大問9

◇小問4

これは、実は今回の学テで最も問題のある設問ではないかと思います。

なぜなら、「質の高低」といった相対的な判断とは違い、書かれていることがらの「正誤」という絶対的な判断に関わる問題点をはらんでいるからです。

ここでは、「美」の意味・用例として次の4つが挙げられています。

  1. うつくしい。うるわしい。「─麗」
  2. うまい。おいしい。「─食」
  3. ほめる。「褒─」
  4. よい。立派である。「─徳」

その上で、次のア・イの「美」の意味を、これら4つから選べというのです。

ア 賛美
イ 優美

アの答えが3「ほめる」であることは、文句ありません。

イの答えが1「うつくしい。うるわしい」であることも、問題はありません。

──が、4「よい。立派である」を排除しきれるかといえば、疑問が残ります。

「優美」を辞書で引きます。

上品で美しいこと。しとやかで美しいこと。(デジタル大辞泉)
すぐれてうるわしいこと。上品で美しいこと。みやびやかなこと。(日本国語大辞典)
上品で、奥ゆかしい美しさを持っている様子だ。(新明解国語辞典 第七版)

こうして見ると、たしかに、1が「最もふさわしい」答えではあります。

しかし、まだ「よい。立派である」を否定したことにはなりません。

そこで、問題と同様、漢和辞典を引きます。

手元の『角川 新字源(改訂版)』では、美の意味をこう書いています。

  1. うまい。おいしい。
  2. よいこと。よいもの。
  3. よくする。
  4. うつくしい。うるわしい。
       ア みめよい。器量がよい。(対)醜。
       イ きれい。
       ウ よい(善)。りっぱな。(対)悪。
  5. ほめる。よみする。

注目すべきは、4です。4のウです。

設問上では、「うつくしい・うるわしい」と「よい・立派だ」を分けていますが、新字源では、「うつくしい・うるわしい」の中に「よい・立派だ」が含まれているのです。

新字源の解釈に従えば、選択肢4を積極的に排除することは難しくなります。

選択肢4を選んだからといって、「辞書を活用し,漢字が表している意味を正しく捉える」(解説資料)能力が不足していると判定されたのでは、たまったものではありません。

なお、白川静氏による『字通』(平凡社)は漢和辞典における『広辞苑』のような存在ですが、その「美」の項目にはこう書かれています。

  1. うつくしい、すぐれる、めでたい。
  2. よい、よみする、ほめる。
  3. みちる、さかん、ただしい。
  4. たのしむ、よろこぶ、さいわい。

設問の分類とも新字源の分類とも異なっています。

こうして見ると、漢和辞典の字義の分類というのは多分に恣意的であるということが伺えます。

そんな中で、このような問いを出題することそれ自体、大いに問題があると言わざるを得ません。

◇小問5

これは、私が以前からずっと指摘している「無駄な情報」「無駄な演出」が明確に現れている設問です。

これ、サグラダ・ファミリアについて語っているわけですが、その必要性が全くありません。

「建設中のサグラダ・ファミリア」の写真(絵)も要りません。インクの無駄です(インクが最も無駄なのは、Bの冒頭の漆の絵ですが)。

2文目だけを並べるか、もっとシンプルな別の内容にするか。単純化する方法は、いくらでもあったはずです。

真面目な子ほど「無駄な情報」「無駄な演出」を読んだり見たりすることに時間をとられ、本来持っているはずの能力を発揮できずに終わってしまうこともあります。

いつも言っているように、「むき出しの技能」を測るべきなのです。

image by:  Shutterstock.com

 

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