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アマゾン株の割安・割高論争に決着? 成長企業への投資はココを見ろ=東条雅彦

Amazon株の「割安・割高論争」について確実に言えるのは、「単純にPERだけを見て割高である」という指摘は間違っているということです。バフェットもマンガーも、今までAmazonやGoogleに投資してこなかったことを後悔していました。

それでは、どういうアプローチを取れば、これらのいわゆる成長企業に対して、適切な投資判断ができるようになるのでしょうか?

本稿では具体例として「Amazon」を取り上げながら、グロース投資法について図表を交えながら、わかりやすさ重視で解説していきます。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

PEGレシオを使って成長企業の「割安・割高」を判断する方法

バフェット流投資のターゲットは「成熟期」の企業

バフェットファンの間では著名な書籍『億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術』では、バフェットの投資法を財務的に解明しています。この書籍では、以下のような財務的な特徴を持つ企業が「バフェット銘柄」であると定義されています。

EPSは「1株当たり純利益」、BPSは「1株当たり純資産(株主資本)」を意味します。

教科書的バフェット銘柄であるA社は、毎年、株主資本の20%分の利益を出してくれます。具体的に言えば、2006年に10ドルの株主資本のうち、20%である2ドルが利益になります。その利益の2ドルは翌年の株主資本に組み込まれて、株主資本が10ドルから12ドルに増えています。

翌年の2007年には株主資本12ドルの20%分の利益(=2.4ドル)を出して、またその利益が株主資本に組み込まれるという流れで複利の効果でどんどん利益も資産も増えていくという特徴を持っています。

このバフェット銘柄のセンターピンとも呼ぶべき「高ROE」という指標は、明らかに「成熟期」の企業をターゲットにしています。

なぜなら、創業したばかりの企業や成長期の企業は「利益」を出さないためです。

企業のライフサイクルとは?

人の人生には「少年→成人→中年→老人」というライフサイクルがあります。法人(企業)にもこれと同じようにライフサイクルがあります。

その企業がどのライフサイクルにいるか?は、財務3表のキャッシュ・フロー計算書の動きを見れば、大方、判定できます。

<企業のライフサイクル>

<各ライフサイクルにおけるキャッシュフローの推移>

導入期は金融機関や株主からの資金調達が行うので、財務CFだけがプラスになっていて、それ以外の営業CF、投資CFはマイナスです。

成長期に入ると、本業からお金を生めるようになり、営業CFが立ち上がっていきます。成熟期では配当金の支払いや自社株買いによって、財務CFがマイナスに転じます。投資CFは淘汰の時期に入るまで、基本的にはマイナスです。企業は先行投資をし続けて、来季以降の利益を生み出します。

Next: 成長企業は「利益」ではなく「売上高」と「キャッシュフロー」で評価すべし



長期にわたって続く、IT企業の「成長期」

テクノロジー関連の代表銘柄であるAmazonFacebookNetflixGoogle(Alphabet)等はずっと成長期が続いています。この4社は頭文字を取って「FANG」と呼ばれています。

これらの企業はインターネットという情報空間にビジネスを展開しています。そのため、商圏が世界中に広がっています。従来のビジネスのように物理空間による制約を受けにくいという特徴を持っています。商圏が広がり続けるため、常に先行投資が必要で成長期が長期にわたって続いています。当然、先行投資が続いているので、利益がとても低くなっています。

バリュー投資やバフェット流投資では、基本的には利益の推移を重視します。しかし、その期待している利益の増大が見込めるのは、企業ライフサイクルの成熟期以降です。

成長期にいる企業の場合、低PER高ROEという観点からでは、投資対象かどうかは判断できないのです。

成長企業は「利益」ではなく「売上高」「キャッシュフロー」で評価すべき

企業の売上高・最終利益・営業CFはライフサイクルに沿って、概ね次のように推移していきます(あくまでも単なるイメージです)。

<企業のライフサイクル 売上高・最終利益・営業CFの推移>

最終利益は売上高から様々な費用を差し引いて、最終的に残るお金です。

最終利益にフォーカスして企業を評価できるのは、成熟期以降となります。そのため、成長期の企業を適正に評価する場合、売上高や営業CFの伸び率を見ていくのが一般的なアプローチとなります。

売上高は利益を作るための最もベースの金額になります。ベースの金額が右肩上がりに伸びているのであれば、基本的にマーケットは高い評価を下し続けます。

あと、売上高の上昇と合わせて大切なのは、営業キャッシュフローがしっかりと伸びているかどうかです。営業キャッシュフロー(CF)は「本業での儲け」を示します。

企業は「資金調達→投資活動→営業活動」の3ステップを回転させながら、お金を生み出していきます。

営業活動で得られる利益は、損益計算書だけではなく、キャッシュフロー計算書にも反映されます。成長企業の場合、損益計算書の最終利益(当期純利益)よりもキャッシュフロー計算書の営業CFの方が頼りになります。

財務3表と企業活動の3ステップ(資金調達→投資活動→営業活動)の関係を、以下の図にまとめました。

<財務3表~成長期の企業は営業キャッシュ・フローに注目>

物理空間で事業を展開している非テクノロジー企業は、ある程度大きくなると、商圏に制約がかかってきます。

一方、テクノロジー企業は制約の少ない情報空間で事業を展開しています。情報空間では売上高がスピーディーに増えていき、成長期が長く続きます

「この企業はなかなか利益が出ないな」と思っていると、永久に投資チャンスを逃してしまいます。

具体的な例として、バフェットが投資をしていなくて後悔したというAmazonの売上高、営業CFを見ていきましょう。

Next: Amazonは創業以来、ずっと成長期が続いている



Amazonは創業以来、ずっと成長期が続いている

Amazon1994年にジェフ・ベゾスによって創業されたインターネット書店です。1997年にはNASDAQに上場しています。今では書籍だけではなく、様々な商品やサービスを取り扱っています。最近ではAWS(Amazon Web Services)というクラウドコンピューティングサービスがヒットして、「インターネット書店」というイメージが徐々になくなりつつあります。

Amazonは創業してから23年が経ちますが、企業のライフサイクルとしては「成長期の前半」ぐらいの立ち位置にいます。売上高が一直線に上昇しながらもまったく利益が上がっていません

2012年と2014年には赤字に陥っています。まるで創業したばかりの企業のように見えます。

純利益率(純利益÷売上高)は2011年以降、2%を超えることはありません。純利益だけを見ていると、全然、儲かっていないのではないかと勘違いしそうになります。当然、純利益が少ないと、PER(株価÷1株あたり純利益)の値がものすごく跳ね上がってしまいます。

成長株に対してバリュー投資的な観点で評価すると、「AmazonはPERが180倍を超えているから危険である」という間違った結論になってしまうのです。

成長株を適切に評価するには?

成長期の前半では利益が出ていなくても、営業キャッシュフローは立ち上がっています。そのため、営業キャッシュフローの推移を確認することで、成長株に対しても適切な評価が下せるようになります。

Amazonの売上高、営業CFは共に順調に伸びています。2013年以降の営業CFの前年伸び率は30%を超える水準です。営業CFはわずか8年で約10倍になっています。これはとても驚異的な伸び率です。売上高も10年で約10倍に増えています。

今、Amazon株を買って長期的にホールドしようとしている投資家は、間違いなく純利益ではなく売上高や営業CFの動きに注目しているはずです。

Next: 割安か割高か、PERだけでは判断できない。成長企業の株価を評価するには?



AmazonのPERと「Price/Cash Flow」

成長期にいる企業の株価が割安か割高を判断するには、「Price/Cash Flow」という指標が役立ちます。この指標は「株価÷1株当たり営業CF」で求められます。成熟期以降の場合はPER(=Price/Earnings)が使えます。

AmazonのPERと「Price/Cash Flow」の推移を、モーニングスターのサイトで確認できます。

<補足情報>

下記のURLはブラウザのお気に入りに入れておくことをオススメします。
http://financials.morningstar.com/valuation/price-ratio.html?t=AMZN

AmazonのPERは、2017年6月12日時点で181倍に達しています。

PERだけを見たら、腰が抜ける程の割高になっていて、本当にビックリします。しかし、「Price/Cash Flow」の値を見ると、27.9倍です。この27.9倍という値は、10年前の2007年12月末と同じ値になっています。過去のデータから比べても決して割高ではなく、ごくごく標準的な値になっています。

公式「(Price/Cash Flow)÷予想成長率」で割安・割高が判明

割安か割高の判断は、PEGレシオという概念を通じて行うべきです。厳密に言えば、世の中には「Price/Cash Flowレシオ」という用語は存在しないのですが、「予想成長率」を加味することで割安か割高かの判定を正しく下せるようになるのです。「レシオ」という言葉は比率という意味です。

イメージとしては「シーソー」を思い浮かべてください。「Price/Cash Flow(30倍)」という重りをシーソーの左側に乗せます。

<「Price/Cash Flow(30倍)」という重りをシーソーの左側に乗せる>

残念ながら、これだけでは割安か割高かは判定できません。

右側に「予想成長率」という重りを乗せて、初めて「割安か?割高か?」の判定がつくようになります。

<「予想成長率」をシーソーの右側に乗せる>

<参考:PEGレシオの一般的な基準>

「Price/Cash Flow」が30倍であっても、予想成長率が30%というかなり高い値であれば、十分にバランスが取れて、「適正価格」だと見なされます。

もし予想成長率が5%という低い値だったら、シーソーが左に傾いて、「割高」になります。

<予想成長率が低い場合は「割高」になる>

もし予想成長率が50%という高い値だったら、シーソーが右に傾いて、「割安」になります。

<予想成長率が低い場合は「割安」になる>

(現実的には予想成長率50%という高い値を維持できる企業はほとんどありません。)

Next: 現在のAmazonの株価は割安でも割高でもない



現在のAmazonの株価は割安でも割高でもない

Amazonの成長率は驚異的です。売上高と営業キャッシュフローは過去9年間において、年率換算でそれぞれ27.91%、31.43%のペースで成長しています。

「Price/Cash Flow」は27.9倍ですが、もし今の勢いが衰えないと仮定するのなら、今の株価は割安でも割高でもありません。現在、Amazon株を長期保有するために買い集めている人は、年間の予想成長率を30%前後で推測しているものと思われます。

過去3年、過去5年の平均成長率を見ても、一般的な企業よりも遥かに高い値を示しています。

<Amazon 売上高、営業CF 過去5年の平均成長率 (単位:百万ドル)>

もちろん、将来にわたってこのような高い成長力を維持できるかどうか保証は一切、ありません。ここが成長株に投資する難しさだと言えます。

さて、次回はそもそも成長期にいる企業の場合、「PERの代わりに『Price/Cash Flow』を使っても、本当に問題がないのか?」について検証していきます。さらに、バフェットはAmazonを購入しなかったことを後悔していた件についても、考察を進めていきます。

最近のバフェットやマンガーは、謎の発言が多すぎます。何だか、時代が大きく変わろうとしているような気がしてなりません。

その謎の鍵を握るのは「グロース投資とIT企業への理解」だと私は思っています。次回のメルマガ(6月25日号)に続きます。

【関連】バフェットの心変わり。なぜ賢人はIT企業への投資を決断したのか?=東条雅彦

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2017年6月18日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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