米国株を牽引するFANG銘柄。「今が買い場」と言う人も「バブルそのもの」と言う人もいますが、データを検証してみるとその実態は意外なものでした。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資〜雪ダルマ式に資産が増える52の教え〜』東条雅彦)
本当に「S&P500が割安でFANG銘柄が割高」なのか?データ検証
なぜ「FANG銘柄」はバブルだと言われるのか
現在、米国株はFANG銘柄が牽引していると言われています。FANG銘柄とはFacebook(FB)、Amazon(AMZN)、Netflix(NLFX)、Googleの親会社Alphabet(GOOGL)の4社です。
確かにこの4銘柄のパフォーマンスはS&P500を大幅にアウトパフォームしています。下記のグラフはFacebookが上場した2012年5月18日から2017年10月23日までの比較グラフです。
<S&P500 VS FANG(2012/5/19〜2017/10/23)>
FANG銘柄の中ではNetflixが圧倒的なパフォーマンスを示しています。約5年5ヵ月で資産が約20倍になる勢いです。
S&P500に投資するという手法は「インデックス投資」と呼ばれていて、金融経済学の中でベストプラクティスだと言われています。以下の表は「アメリカ大型株に投資するアメリカ国内のアクティブファンド」とS&P500を比較した表となります。
<「S&P500」に負けた大型株アクティブファンドの割合>
残念ながら投資期間が長くなればなる程、アクティブファンドは負けています。15年後には92.15%のアクティブファンドがS&P500に負けています。
FANG銘柄は恐るべきことに、この優秀なS&P500を大幅にアウトパフォームしているのです。もしこれらの銘柄に長期投資していた投資家がいれば、今頃、大金持ちになっているでしょう。実際には怖くなって途中で降りてしまう人が多いのかもしれませんが、いずれにしても、この4銘柄のパフォーマンスは異様です。
FANG銘柄はS&P500に対して、ありえないレベルで勝ち続けているため、「バブル」だと言われています。
FANG銘柄はS&P500と連動している
それでは、FANG銘柄はS&P500と無関係に動いているのでしょうか? いえ、そんなことはありません。
2012年5月18日から2017年10月23日までの期間において、S&P500とFANG銘柄の相関係数を調べた結果がこちらです。
<相関係数(2012/5/19〜2017/10/23)>
相関係数の値は-1以上1以下です。相関係数が1に近ければ、正の相関が強く、-1に近づけば負の相関が強くなります。0に近ければ無相関です。
FANG銘柄の中で最も相関係数が低いのはAmazonです。過去5年5ヵ月で株価が約20倍に上昇しているNetflixの相関係数は0.93で意外にも高くなっています。ただ、その差は0.07しかなく、それ程、大きな差があるわけではありません。
下記の表に当てはめると、FANG銘柄の4銘柄とも「強い正の相関あり」に分類されます。
<相関係数の説明>
相関係数から見ても、FANG銘柄がS&P500の牽引役になっていることが伺えます。
Next: 必ずしも「FANG銘柄は割高、S&P500は割安」と言えない理由
IBM、エクソンモービルの相関係数
S&P500の中にはFANG銘柄のような華やかな銘柄がある一方で、まったく株価が上昇しない銘柄もあります。
例として、IBM、エクソンモービル(XOM)とS&P500との相関係数を調べてみました。この2銘柄はいずれも業績不振で株価が上昇しなくなっている銘柄です。
<相関係数(2012/5/19〜2017/10/23)>
エクソンモービルは-0.28で「弱い負の相関あり」、IBMは-0.69で「負の相関あり」になっています。
案の定、S&P500の足を引っ張っている銘柄は「負の相関あり」になってます。いずれにしても、この2銘柄の相関係数は先程のFANG銘柄と比べて、かなり低い値になっています。今の所、S&P500とはまったく足並みを揃えて上昇するどころか、逆に下落してしまっている状況なのです。
<S&P500 VS IBM・GE(2012/5/19〜2017/10/23)>
Facebook、Amazon、Netflix、Google、IBM、GEは業績とまったく無関係に動いているわけではありません。むしろ、このように「勝ち組」と「負け組」で株価の明暗が分かれている所を見ると、過去5年5ヵ月という期間においては、ミスターマーケットは正しい判断をしているように見えます。
実はFANG銘柄よりもS&P500の方が加熱している
FANG銘柄がS&P500の牽引役になっていることから、「FANG銘柄は割高、S&P500は割安」という見方がいつの間にか根強くなってしまいました。
しかし、必ずしもそうとは言えません。なぜなら、FANG銘柄の成長率がとても高いためです。事業の拡大スピードに合わせて、株価が上昇しているのなら、それはバブルとは呼べません。
FANG銘柄の売上高成長率(過去10年間)は次の通りです。
<FANG銘柄の売上高成長率(過去10年間)>
恐るべきことに、FANG銘柄の成長率は異常とも呼べるぐらい高くなっています。過去5年、過去10年の平均売上高成長率は以下の通りです。
<過去5年、過去10年の平均売上高成長率>
過去5年平均成長率が最も低いGoogleでも20%近くの値を示しています。これはハイテク銘柄以外の企業からすると、信じられない程の高い成長率です。
Next: FANGの株価が高いのは当たり前、過熱しているのはむしろS&P500だ
年間成長率20%の意味を「72の法則」で理解する
「72の法則」という資産運用において元本が2倍になるような年利と年数とが簡易に求められる法則があります。
<例>
72 ÷ 10 = 7.2年
72 ÷ 20 = 3.6年
72 ÷ 30 = 2.4年
年間の成長率が10%の場合は約7年、20%の場合は約3年半、30%の場合は約2年半で、元本が2倍になります。
FANG銘柄のように年間20%のペースで成長している場合、約3年半で事業規模が2倍になります。約7年で4倍です。
つまり、株価が適正価格で推移していた場合、約3年半で2倍、約7年で4倍に増えても、まったくおかしくはないという話になるのです。
S&P500は歴史的には「割高」である!
FANG銘柄は高い成長率を買われて、株価が上昇しています。その一方で、市場平均であるS&P500は売上高が伸びていないのに、株価が上昇しています。
多くの人は「FANG銘柄は割高でS&P500は割安」と捉えていますが、実態はそうではありません。
株価売上高倍率で見ると、S&P500は過去10年で最も高い値を示しています。株価売上高倍率とは、「PSR」とも呼ばれ、企業の価値を売上高との関係から見た指標です。
<株価売上高倍率(PSR)>
企業の時価総額 ÷ 年間売上高 = 株価売上高倍率
<S&P500 VS FANG銘柄 PSR>
S&P500のPSRは直近で2.1倍になっています。2007年からの計測では最も高い値を示しています。これはS&P500を構成する500社の合計時価総額が500社の合計売上高の約2倍になっているという意味です。明らかにS&P500の株価は将来の成長を先取りしています。
NetflixのPSRは7.9倍に達しており、こちらも過去最高値です。しかしながら、2015年に7.7倍になったこともあります。
一方で、FacebookとGoogleは過去の値から見て、完全に「平常運転」です。別に今の株価が特別にバブルというわけではないでしょう。株価チャートだけを見ていると、一直線に上昇しているので「バブル」に見えますが、歩調を合わせて、事業も拡大しています。
Amazonの3.1倍はやや過熱気味に見えます。ただ、2015年のPSRは3.2倍だったので、今の株価が「バブル」とは言いにくい状況です。高い成長率が維持できるのなら、十分、正当化される可能性があります。
「FANG銘柄は割高だ!」という話を真に受けないで、個別銘柄で勝負している人は1つずつ慎重にチェックした方が良いと思います。少なくとも市場平均であるS&P500は過去の推移からはバブルではないにしろ、過熱気味なのは間違いありません。
ちなみに、PERではなくPSRで見ている理由は、よりフェアな比較をするためです。成長企業は先行投資に大半のキャッシュを割り当てるため、損益計算書上の利益をほとんど残りません。事業構造上、ほとんど利益を残さない成長企業のPERを見ても正しく評価できないのです。
削りようがない「売上高」をベースにしたPSRで比較すれば、S&P500とFANG銘柄を同じ土俵で評価できます。
Next: 日常生活における4つの行動とFANG銘柄の関係から言えること
日常生活における4つの行動とFANG銘柄の関係
本稿では過去5年または過去10年を振り返って検証しています。未来のことは一言も書いていません。
もし、今後、FANG銘柄の成長率が下降するのなら、株価は暴落するでしょう。FANG銘柄が驚異的な業績を叩き出している原因に共通しているのは、インターネットの利用人口と利用時間の増加です。特にスマートフォンの普及によって、今までインターネットに接続されていなかった人も1日24時間、接続しっぱなしになっています。
<今、生活に定着している4つの行動>
・Facebookでお友達と情報をシェアする。
・Amazonで買い物をする
・Netflixでドラマや映画を視聴する
・Googleで調べ物をする
上記の4つの行動を取る人が増えているため、FANG銘柄は業績を伸ばしています。一方で、それ以外のレガシー事業を展開している企業は苦戦を強いられています。
当メルマガ読者さんの中で上記の4つの行動をまったく取っていないという人は、おそらく皆無でしょう。株式投資の世界は普段の生活と深く関わっています。むしろ、普段の生活と投資行動を分離すべきではありません。
普段の生活を通して株式市場を見ることで、目の前で起きている現象が「本物」なのか、それとも「偽物」なのかが判別できるようになります。
人々がスマートフォンを捨てて、インターネットに接続しなくなって、以前のような生活に逆戻りするとは思えません。もし可能性があるとすれば、FANG銘柄のライバル企業が出現して、市場を奪われる時が滅亡の時になるでしょう。そして、今の所、FANG銘柄の刺客は見当たりません。
長期投資家にとってはここが最も悩みの種です。刺客がいない状況というのは、突然、誰も考えもしなかった方向からやってくるかもしれない。いわゆる、ブラックスワンという現象ですが、黒い白鳥が出現しまくるのがビジネスの世界です。
どんな投資にもリスクがあることは受け入れなければいけません。
補足事項「身の回りで起きている変化に注意しよう!」
10月24日の夜、私はTwitterで次のようにつぶやきました。
最近、FANG銘柄が全部、バフェット銘柄に見えてきて、困る。
たぶん、間違っているんだけど(笑)うーん、その真偽を確認するために、時々、タイムマシンが欲しくなる。
・・・でも、未来がわかっちゃうと、きっとつまらないんだろうな。ドキドキ、ワクワクも含めて、株式投資だと思う。
— 東条雅彦 (@tojomasahiko) 2017年10月24日
特に最近、ショックだったのがITにまったく興味のない友達がNetflixに入ったこと。「Netflixの方が安いし、TSUTAYAはそのうち全部潰れる」という大胆な予想を口にしていた。
今回のは、ITに興味のない世間の人々の生活様式を変化させ、「実利」が伴っている。
— 東条雅彦 (@tojomasahiko) 2017年10月24日
FANG銘柄の中で、Netflixだけ全然、馴染みがなかったけど、身近な人が顧客になったことで、「まじで」と驚いた。
米国系ハイテク企業はヤバイ。一気に市場シェアを取ってくる。日本企業は勝てるのだろうか。
米国企業に囲まれて生活する未来が頭によぎってしまう。ある意味、怖い。
— 東条雅彦 (@tojomasahiko) 2017年10月24日
FANG銘柄は株価抜きにすれば、素晴らしい企業群だと思います。もちろん、今の株価は「割安」ではありません。FANG銘柄の株価は金融危機が伴うようなイベントがないと株価が落ちてきそうにありません。そのため、次の金融危機で大暴落した所を拾うのが最も賢明な投資戦略だと思います。
ただし、問題が2つあります。
1つはその大暴落がいつ起きるかがわからない点です。もう1つは次の大暴落が起きるまでの間に、FANG銘柄の事業がどんどん拡大していき、株価がさらに上昇してしまう点です。
その間、レガシー事業を展開しているオールドエコノミー企業はFANGに顧客を奪われるので、減収減益が続きます。第4次産業革命が本格的に立ち上がる2020年代の中盤に差し掛かると、その傾向がより強くなってくるでしょう。そして、この現象は金融危機が起きようが起きまいが、無関係で生じます。個別銘柄で勝負している人は、銘柄の選定がとても難しい時代に入ってきたと思います。
株式投資と自分の生活を分離しないで、「身の回りで何が起きているのか?」に細心の注意を払っていきましょう。いずれにしても、後悔のない選択をしていきたいものです。
Next: まとめ:「S&P500は割安、FANG銘柄は割高」という説は間違っている
本稿のまとめ
・S&P500とFANG銘柄は、過去の統計では相関係数がとても高い
・「S&P500が割安で、FANG銘柄が割高」という説は間違っている。もしFANG銘柄が割高だというのなら、S&P500も十分に割高である
・FANG銘柄のすべてが割高だと決めつけるのではなく、個別銘柄毎に冷静に分析すべきである
・FANG銘柄の中で、GoogleとFacebookは割高でもなく割安でもなく、今の所、平常運転になっている(※1)
・Facebook、Amazon、Netflix、Googleは私達の生活に深く浸透しつつある。株式市場と日常生活を分離して捉えるべきではない
・バフェットは、次の金融危機発生時にはFANG銘柄に手を出す(※2)
(※1)Amazon株の割高・割安論争については過去の記事を参照願います。
(※2)これは私の勝手な推測となります。
『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資〜雪ダルマ式に資産が増える52の教え〜』(2017年10月29日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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