マネーボイス メニュー

フェイスブック、ツイッター株急落は、米国経済凋落の危険なサインなのか?=江守哲

前週末、米国株をけん引してきた主力ハイテク株が大きく下落。これをきっかけとした景気後退を懸念する声もあるが、どうだろう。この先の展望を考えたい。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2018年7月30日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

業績好調の企業も売られる異常事態。投資家は決して惑わされるな

高値圏での推移が続く米国株

米国株は高値圏での推移が続いています。その中で、出遅れていたダウ平均が上昇し始めた一方で、ハイテク株が多いナスダック指数がやや不安定になっています。

ダウ平均は重要な節目だった25450ドルを上向けてきました。しかし、ナスダック総合指数は27日の市場で114.766ポイント安の7737.419で引けるなど、不安定さが出始めています。

NASDAQ 日足(SBI証券提供)

NYダウ 日足(SBI証券提供)

27日に発表された4-6月期の米実質GDP速報値は、前期比4.1%増と前期の2.2%増から急加速しました。

米国景気はまだまだかなり堅調です。個人消費が好調で、米国経済の底堅さに対する安心感が広がったものの、4-6月期決算ではダウ構成銘柄で弱い内容が相次ぐなど、売りが優勢となりました。

例えば、次世代成長の要とされる「データ中心事業」の伸びが予想に届かなかったインテルや、1株当たり利益が予想を大きく下回ったエクソンモービルには失望売りが出ました。また、最高値圏にあるハイテク株を中心にも利益確定の売りが広がっています。

一方で、原油高を追い風に純利益が2.4倍に膨らんだシェブロンは堅調さを維持しています。

アマゾンの決済は絶好調。しかし株価は…

注目の決算はまちまちでした。

主要なところでは、アマゾン・ドット・コムの4-6月期決算は純利益が前年同期比13倍の25億3400万ドルとなり、四半期ベースの最高益を記録しました。17年に買収した食品スーパーのホールフーズ・マーケットなどが加わり、売上高は39%増の528億8600万ドルに膨らみました。さらにクラウド事業など利幅の大きいビジネスの成長が続いていることも業績をけん引しました。

四半期の純利益が20億ドルを上回ったのは初めてです。この結果、1株あたり利益は5.07ドルとなり、市場予想の2.50ドルを大きく上回りました。また、売上高営業利益率は5.6%と、1-3月期の3.8%から急拡大しました。さらに、利益率が高いクラウド事業が前年同期比49%増の大幅増収となり、利益を押し上げた。これは相当堅調な決算だったといえます。

アマゾンは米国でネット通販などの有料会員制度「プライム」の年会費を5-6月に2割引き上げており、この結果、「会員サービス」部門の売上高は4-6月期に前年同期比57%増えており、これが業績に貢献しています。

一方、商品を販売する場を第三者に提供する「マーケットプレイス」事業も39%の増収でした。出品者から手数料をとって自前のインフラを提供する同事業はクラウドと並んで利益率が高く、注力事業となっています。

AMAZON COM INC<AMZN> 日足(SBI証券提供)

しかし、株価は伸び悩んでいます。

Next: フェイスブック、ツイッターほかハイテク株に現れた異変



注目を集めたフェイスブックは…

一方、市場で注目されたのはフェイスブックでした。26日の市場で前日比19%安となり、時価総額は1日で1194億ドル減少しました。米国の上場企業の1日の時価総額の下げ幅としては過去最大となったもようです。

FACEBOOK INC A<FB> 日足(SBI証券提供)

25日に公表した4-6月期決算が市場の予想に届かず、さらに成長鈍化見通しが示されたことも嫌気されました。25日の取引時間中に同社株は上場来高値を更新し、時価総額は終値ベースで6298億ドルに達していただけに、決算内容により下げへの反動が大きくなったようです。

フェイスブックが公表した決算では、売上高が市場予想を下回り、伸び率も1-3月期を大幅に下回りました。

18年第3・4四半期の売上高の伸び率は下がると会社は説明していました。6月末の1日あたり利用者数も想定に届きませんでした。3月に個人情報の流出問題が明らかになり、不正対策費用の負担も重いようで、人手がかからず事業効率が高いビジネスモデルは変わりつつあるとみられています。

ツイッターも急落

また、27日にはツイッター株が前日終値比21%急落しました。4-6月期決算では最終損益が1億ドルの黒字となり、前年同期の1億1600万ドルの赤字から黒字に転換しました。

売上高は前年同期比24%増の7億1100万ドルと市場予想を上回りましたが、不正アカウントの閉鎖に伴って月間利用者数が減少したことで失望売りが広がりました。

TWITTER<TWTR> 日足(SBI証券提供)

ハイテク株が引き起こした市場の混乱

このように、先週はハイテク株の決算で市場が大きく混乱しました。

ツイッターではサービスの健全性を高めて広告媒体としての価値を高めるため、テロ行為を称賛するなど利用規約に違反したアカウントを閉鎖する取り組みを強化しています。

プライバシー保護対策などを含めたアカウントの閉鎖数は18年4-6月期に300万強に上り、月間利用者数は3億3500万人と18年1-3月期に比べて100万人減少したもようです。

フェイスブックもそうですが、個人情報を扱う企業にはサービスの健全性を最優先することで追加のコストが加わっており、これが業績を圧迫するとの見方が強まりつつあります。

ツイッターは今後もシステム投資と人員増を続ける方針を示す一方、不正を自動検出する技術の改良などに伴ってアカウントの閉鎖数は増加しているとしています。

これらの状況に対して、市場が今後どのような評価を下すのか、要注目といえます。

ただし、これは事業の拡大と安定性を求めるうえでは必要不可欠な費用といえます。これを乗り切ることができれば、ハイテク株は一段の上昇に向かうと考えています。

Next: 米経済はまだまだ堅調。減税効果で個人消費が盛り上がりを見せている



米GDPは堅調。個人消費がけん引している

一方、米GDPは堅調でした。4-6月期の実質GDP速報値は年率換算で前期比4.1%増となりました。

減税効果を背景に個人消費が盛り上がり、14年7-9月期の4.9%増以来の大きな伸びを記録し、景気の底堅さを改めて裏付けました。前期は2.2%増に上方修正された。

09年7月に始まった米国景気の拡大は、戦後最長となる10年間の更新も射程内にはいってきました。

GDPの約7割を占める個人消費が4.0%増で、前期の0.5%増からは鈍化しましたが、14年10-12月期の4.7%増以来の高い伸びでした。自動車などの耐久財が9.3%増と2期ぶりにプラスに転換。衣料品を含む非耐久財は4.2%増、サービスが3.1%増と、いずれも前期から大きく加速しました。

設備投資は7.3%増。前期の11.5%増からやや伸び悩みましたが、高い水準を維持した。輸出は9.3%増で、全体の伸びに貢献しました。輸入は0.5%増でした。個人消費支出(PCE)物価指数が1.8%上昇、エネルギーと食料品を除いたコアは2.0%上昇でした。

米国債の利回りがなかなか上がらない

一方、米国債は利回りはなかなか上がってきません。利回りがある程度上昇したため、依然として国債への需要が高いようです。

市場はPCE物価指数が落ち着いていることで、インフレが抑制されていると判断しており、利回り上昇のペースが上がらないとみているようです。

27日の終値ベースで10年債利回りは2.9620%、2年債利回りは2.6770%となり、イールドスプレッドは0.2850%となっています。

イールドスプレッドは前週に約10年ぶり水準となる0.23%に縮小しましたが、現在はその水準からは拡大しており、まだまだフラット化は本格的には進んでいないといえます。

注目はダウ平均。米国株はまだまだ堅調さを維持する

しかし、このような状況でも、私は米国株は堅調さを維持するとみています。

特にダウ平均は2万5400ドルを維持すれば、ここがサポートになり、上向きやすくなるとみています。

S&P500やナスダック指数に比べてかなり出遅れていますので、上昇し始めるとかなり強くなるでしょう。ハイテク株への不透明感が高まる可能性もありますが、手仕舞い売りが一巡すれば、再び戻してくると考えています。

特にツイッターは短期的に上げすぎましたので、まだ下げるかもしれません。慌てずに底打ちを確認してから押し目を拾うのが良いのではないかと考えています。

Next: ターニングポイントは1年後? 米国景気は歴史的な拡大基調にある



米国景気は歴史的な拡大基調にある

繰り返すように、米国景気は歴史的な拡大基調にあります。まさに想定してきた通りです。ハイテクバブル時に匹敵する拡大期になることは、以前から申し上げてきた通りです。

あと1年間がポイントです。いまはあらゆるデータが重なってきています。1年後に大きなターニングポイントを迎えることを再確認しておきましょう。

イールドカーブのフラット化にはまだかなり余裕があります。市場はまだ金利の大幅な上昇を見込んでいません。その意味でも株価の上昇余地があります。

一方で住宅着工件数は低下しています。これが続くと、1年後に株価はピークアウトします。そろそろそのような形になってきました。

あとは利上げの最終局面が19年6月になる可能性があり、これもタイミングとしてはきわめて重要です。

さらに、米国債と株価のピークの期間の差が3年であることも、大きな材料です。

米国債は16年6月にピークを付けました。3年後はまさに19年6月です。このように、十分すぎるほど材料がそろっています

あとは、19年6月から12月までのいずれかのタイミングで株価が大きく上げて、ピークアウトすることになりそうです。

売りを出すタイミングを考えるのは、来年に入ってからで十分と考えています。

トランプはいつ「政策緩和」に踏み切るのか?

トランプ大統領は11月の中間選挙をにらんで、いつの時点でこれまでの政策を緩和させるかを見ておけばよいでしょう。

結論は決まっていますが、ほとんどの市場関係者や投資家はこれを知りません。したがって、いまは辛抱強く待つだけです。彼らが理解し始めれば、上げていくことになります。それを待つのみです。

今後もトランプ大統領の「マッチポンプ」政策が続きます。下げさせてまた上げさせる。まさに国際金融筋の言いなりです。

トランプ発言で株価を下げさせて、投資家の売りを誘って押し目を買う。常套手段です。もうわかりますね。

これが彼らのやり口です。これを知っていれば、何も慌てる必要はありません。いつものことです。まだまだ現金が足りません。今後も繰り返し、このようなことが起きるでしょう。

米・欧州の貿易戦争は回避へ

米国とEUによる貿易戦争の回避に向けた動きも見られ始めています。

トランプ大統領とEUのユンケル欧州委員長は25日にホワイトハウスで会談し、自動車を除く工業製品の関税撤廃に向けて新たな貿易対話を始めることで合意しました。関税問題での応酬をやり過ぎてきたことに、両者が気づき始めています。

一方、米商務省のロス長官は、トランプ政権が検討している自動車・同部品の輸入制限措置について、「導入の是非を判断するための調査を早ければ8月に終えたい」としています。

米欧首脳は輸入車制限のEUへの適用を見合わせることで合意しましたが、EU以外の国・地域への適用は「まだ結論が出ていない」としており、米輸入車制限が発動される可能性は消えていません。

今後の動向に注目せざるを得ませんが、私は楽観しています。対中政策もある程度のところで修正されるとみています。

Next: 米国のマッチポンプ政策に惑わされるな。投資家は冷静な判断を



対「中国」政策で一致? アメリカと欧州が同盟を組む

米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は、前日の米欧首脳会談を踏まえ、「世界の貿易体制を破壊してきた中国に対抗して、米・EUは同盟を組むことになる」としています。

EUのユンケル欧州委員長がトランプ大統領に対して、「中国による不公正な貿易慣行の是正に向けて共同歩調を取るべきだ」と提案しました。

クドロー氏は、「EUが米国産大豆、牛肉、液化天然ガス(LNG)の輸入を直ちに拡大する」と強調しています。

大豆は米国が輸出に注力する重要農作物だが、一連の貿易摩擦では、中国が米制裁関税への報復として追加関税を発動しました。その結果、農家には収入減への不満がくすぶり、米政権は農家に対する最大120億ドルの支援を24日に表明しています。

まさに「パッチワーク」「マッチポンプ」政策です。このような政策が長く続くのはむしろ難しいでしょう。

投資家は過度に反応すると命取りに

このように考えれば、いまの不安定に対して過度に反応することはきわめて危険といえます。市場ではいろいろな材料を理由に、不透明感を指摘しながら、将来の株価下落を予想します。

昨年のように空売りで失敗した向きは少ないようですが、それでも乗り遅れた向きが自らの失敗を悔やみながらも、成功した投資家を羨む形で割高感を指摘します。

しかし、そのような「感情」が入り込むと、市場取引は上手くいきません。それは、昨年の市場で経験済みでしょう。

昨年はトランプ政権のやり方を批判するヘッジファンドが株価下落を想定し、空売りを仕掛けました。しかし、これは見事に失敗しました。まさに、投資判断に感情を持ち込んだことが失敗の原因でした。これはもっともやってはいけないことです。

冷静かつデータをもって分析することが肝要です。そうすれば、今回のようにハイテク株の上昇をしっかりと取ることができます

根拠のない弱気スタンスでは、大きな果実を食べ損ねる

繰り返すように、根拠のない弱気スタンスを真に受けると、これからもっとも美味しい部分を捨てることになります。

業績も堅調ですので、ここから上昇に勢いがつきます。関税問題についても、米国と欧州の間で徐々に話し合いが進むことで、懸念は緩和されていくでしょう。

シナリオ通りの動きになりつつあります。結論が見えているので、想像や予想ではなく、出てくる結果をあらかじめ知ったうえで投資できれば、これほど確実なものはありませんね。

Next: 好決算はゴロゴロある。8月&2018年内の想定レンジは?



好決算はゴロゴロある

決算は良いところを見なくなっている面があります。

グーグルの持ち株会社アルファベッドの4-6月期決算も売上高が前年同期比25.6%増、実質1株当たり利益も市場予想を大きく上回り、取引時間中の過去最高値を更新しています。

また、ダウ構成銘柄の決算は好調でした。ユナイテッド・テクノロジーズの決算は純利益が42.2%増となり、同社は通期の業績見通しを上方修正し、株価も上昇しました。

このように、堅調な決算が多いことをわすれてはなりません。

主要企業の好決算を受けて投資家のリスク選好意欲が改善し、ダウ平均は直近高値を更新しています。

安いところで買い、あとは上昇を待つ。19年の後半が勝負どころであることを再確認しておきたいところです。

【ダウ平均株価:2018年の想定レンジ】
強気シナリオ24236ドル~28287ドル(18年末27996ドル)/弱気シナリオ20995ドル~25130ドル(18年末22790ドル)

【ダウ平均株価:8月の想定レンジ】
強気シナリオ25682ドル~27105ドル/弱気シナリオ23007ドル~24415ドル

【S&P500:2018年の想定レンジ】
強気シナリオ2614~3107(18年末3076)/弱気シナリオ2255~2734(18年末2419)

【S&P500:8月の想定レンジ】
強気シナリオ2799~2948/弱気シナリオ2484~2645

【ナスダック指数:2018年の想定レンジ】
強気シナリオ6747~8375(18年末8282)/弱気シナリオ5348~7199(18年末5702)

【ナスダック指数:8月の想定レンジ】
強気シナリオ7297~7775/弱気シナリオ6114~6604

続きはご購読ください。初月無料です<残約20,600文字>

日本株はやや過熱気味も上昇機運

為替市場:ドル円は下落、日銀の政策に注目

コモディティ市場:金・原油ともに下落

今週の「ポジショントーク」:これからの1年に備える

ヘッジファンド投資戦略:中国ヘッジファンドは運用成績の不振~投資戦略構築のポイント

※これらの項目は有料メルマガ購読者限定コンテンツです →いますぐ初月無料購読!

image by:Nick Fox / Shutterstock.com

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2018年7月30日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

【関連】日本の地価崩壊はもう始まっている。東京五輪が「経済災害」になる日

【関連】災害そっちのけで「カジノ法案」を急いだ安倍政権、裏にどんな利権があるのか?=斎藤満

【関連】なぜ買い豚も売り豚も自滅するのか?「次の暴落」が怖くなくなる投資術=鈴木傾城

有料メルマガ好評配信中

江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

[月額3,300円(税込) 毎週月曜日(祝祭日・年末年始を除く) ]
株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。