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日本に決定権がない東京五輪。段取り良すぎのマラソン札幌開催、その舞台裏とは=原彰宏

IOCのトーマス・バッハ会長は「マラソンと競歩の会場を札幌に変更することに決めた」と発言しました。日本に決定権はありません。そしてあまりにも段取りが良すぎです。この会場変更の舞台裏に迫ります。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2019年10月21日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

いつから検討していた?すべてはIOC会長の「鶴の一声」で決まる

札幌に決めた

IOCのトーマス・バッハ会長は、「(日本の)組織委員会との協議の結果、マラソンと競歩の会場を札幌に変更することに決めた」と述べました。

「IOCと国際陸連が賛成している。受けなければならない」。森喜朗会長の発言です。

手続き上では、東京都も出席し30日から3日間、都内で行われるIOC調整委員会で結論を出すことになっています。

怒りが収まらない小池百合子東京都知事

涼しいところと言うんだったら『平和の祭典を北方領土でどうだ』ぐらいのことを、連合から声を上げていただければと思う」。マラソンと競歩会場を札幌市に変更する話を受けての小池都知事の言葉です。

よほど腹立たしかったのでしょう。

森喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長と小池都知事は不仲の噂が絶えず、今回の話は、事前に小池都知事の耳には入っていなかったのでしょう。

「ロシアのプーチン大統領とお親しい安倍総理大臣や組織委員会の森会長なので、『平和の祭典を北方領土でどうだ』ということぐらい、呼びかけてみるというのは、ひとつありかと思います」。もう止まりませんね。

「ホストシティ(の知事が知らされるの)が最後というのは、都民にとってどうなのか」
「組織委や国、自治体や商店街まで暑さ対策に走り回ってきた」
「選手やチケット当選者はどうなるのか」

一気にまくし立てていました。でも、おっしゃっていることは「ごもっとも」です。

マラソンコース予定地のアスファルトの遮熱性舗装やミスト噴霧はどうなるのでしょう。

マラソン選手代表は、今年からMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)大会結果で選考することになり、すでに東京五輪と同じコースを走るMGCは開催済みです。

Next: 日本に権限ナシ。すべてはIOC会長の「鶴の一声」で決まる



IOC会長の「鶴の一声」で決まる

IOC会長の権力は絶大です。すべてのことを決めるのはIOCです。

IOCは、開催国である日本に、ある程度の権限を「付与」しているだけなのです。

マラソンと競歩は、今月まで中東カタールのドーハで開かれた世界選手権で、気温が40度を超える日中を避け、スタートを午後11時半すぎに設定して行われました。

それにもかかわらず、女子マラソンでは68人のうち完走したのは40人で、4割を超える選手が途中棄権したことから、猛暑の中で競技が行われることに選手や関係者から不安の声があがっていました。男子50キロ競歩でも出場46選手のうち、14人がゴールにたどりつけなかった(失格者を除く)とのことです。

「二度とこういうレースは走らせたくない」……女子マラソンに所属選手を送り出した天満屋の武冨豊監督の言葉です。

アスリート・ファースト(選手第一)……IOCが掲げるスローガンで、トーマス・バッハ会長は変更検討について「マラソンと競歩の開催地を移す新たな提案は、我々がどれほど深刻な懸念を持っているかの表れだ」とのコメントを出したとあります。

しかし、「最初から想像できた事態」「なにをいまさら」……そんな思いを抱いている人は多いことでしょう。競歩は皇居外苑を周回するコースで日陰がまったくないわけで、コース見直しを要望する声も上がっているほどです。

日本開催の会場選定に、海の向こうのIOCが決定するという強権です。日本の組織委員会が決めるのではないのですね。

このことに関しての報道も、

国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は17日、ドーハで2020年東京五輪のマラソンと競歩の会場について「IOC理事会と大会組織委員会は札幌市に移すことに決めた」と述べ、すでに二者間では札幌開催で合意に達したとの認識を示した。

出典:「札幌市に移すことに決めた」とIOCバッハ会長 五輪マラソン札幌開催へ – 産経ニュース(2019年10月17日配信)

となっているくらい、IOCの決定事項は絶対なのですね。

小池都知事に伝える前に全世界に向けて発表

森会長は札幌開催案をIOCバッハ会長の権限で決定した案とし、調整委のジョン・コーツ委員長の電話を通じて「これは相談事ではない。この案でやらせていただきます」と、強い意思表示を受けたと言っていますからね。

もうドーハでの各国オリンピック委員会連合(ANOC)総会で、約200カ国・地域の代表者を前に発表しているのです。

バッハ会長の「(札幌開催は)より涼しく選手の健康を守れる。これは大きな、そして重要な一歩だ」という発言を受けて、森組織委員会会長氏は東京都内で記者団に対して「暑さ対策の一環からみればやむを得ない。組織委として受け止めるのは当然」と述べています。

森会長が、ジョン・コーツ委員長の催促を受けて小池都知事に都庁に会いに行ったのは16日でした。

小池都知事がこのことを知らなかったのは、どうやら事実のようで、それゆえ北方領土など、森会長がロシアとのパイプが強いだの、ある意味「恨み節」発言に繋がっているようです。

開催地を置き去りに、IOCの強権ぶりが前面に出た…。まさにその構図の中でのマラソン・競歩開催地変更が決まりました。

Next: いつから決まっていた?段取りが良すぎる札幌開催への変更



札幌変更に関しては段取りが良すぎ

段取りが良すぎですね…。

カタールのドーハでの世界陸上大会があまりに過酷だったからということで、来年の東京五輪持久走競技2種目を別会場に移すと発表。しかも札幌市という、ピンポイントの都市名まで決められているのです。

ドーハでは、国際陸上競技連盟からすでに札幌の映像を流していました。

これはすでに、今のタイミングではなく、もっと前から、マラソンと競歩の会場を東京から札幌に移すことは協議されていたのではないでしょうか。

だったら、東京マラソンコースの遮熱性舗装工事をする前に、あるいは、MGC選考マラソン前に発表してくれればよかったのに…という意見も出てきますよね。

あくまでも札幌への変更をいつ決めたかによるもので、憶測でものを言ってはいけませんが、いくら札幌国際マラソンを経験しているからと言っても段取りが良すぎです。

どう考えても、ドーハの大会前から札幌への変更は考えられていたのではないでしょうか。

なぜ札幌に決まったのか

札幌を選んだ理由は、以下の4つだそうです。

・東京と比べて気温が5〜6度低い
・国際マラソンを開催している
・五輪開催経験がある
・30年冬季五輪招致を目指している

すでにバッハ案として札幌ドーム発着案も、森会長には示されているそうです。

組織委員会は8日に突如、10日に予定していた五輪チケット2次抽選販売の記者発表を無期延期にしました。現場の職員は延期理由すら聞かされていなかったとのことです。

実は、昨年にも北海道での開催案が関係者から提案されていたとのことです。

「我々の計算にはなかったが(IOCの間では)前から出ていた」。森会長の言葉です。

すでに電通も準備しているようで、あまりにも動きが早いというか、いろんなことが「段取り良すぎ」ですよね。

陸上の花形は「トラック&フィールド」

トラック&フィールド……陸上競技の中でトラック競技とフィールド競技を合わせたもののことで、マラソンや駅伝などのロードレースは含めないようです。

世界陸上連盟は、どうも競技場内の種目を重視して、ロードレースは軽視しているのではないかと、スポーツジャーナリスト生島淳氏は語ります。

でも、日本はマラソンが大好きなのです。

そもそもマラソンはアフリカ勢が強く、欧米はなかなかトップには出てこれず、ある意味2時間30分も、じっと観戦する風習が欧米にはないと生島氏は指摘しています。

生島氏曰く、シドニー五輪で高橋尚子選手が金メダルを取った翌日の新聞記事は「marathon-crazy Japane」と書いてあったと、日本人がこんなにマラソンが好きなことをIOCは知らないと指摘しています。

つまり、世界陸連はトラック&フィールド重視で、ロードレースは軽視しているのではないのだろうか…。

Next: いったい誰が負担する? 開催地変更の費用は安くない…



誰が費用を負担するのか

現実問題として準備が大変です。

あと1ヶ月もすればが降ります。マラソンや競歩のコース計測はできなくなります。

選手輸送や宿泊、警備、会場設営などで経費の大幅増加が見込まれますが、組織委員会としては「こちら持ちとなったら切ない。IOCに持ってもらいたいと伝えた」とし、コーツ氏は「よく精査する」と回答したとのことです。

持久走競技会場変更は「鶴の一声」で決まった新たな出費です。

小池百合子知事は、東京都が支払うことを嫌うでしょう。当然「国が持つと事務総長が言っていた」となるでしょうし、組織委員会としても森会長は「IOCに持ってもらいたい」となるでしょう。

国の態度と言えば、「東京都と大会組織委員会が責任を持ってするもの」との菅官房長官の発言です。

いずれにしても、私たちの税金が使われることには変わりがありません。

「安上がりの」五輪はどこへ?

たしか東京五輪は、すべての競技会場等が近く、現存施設を有効活用する「コンパクト」を強調した「安上がりの」五輪を標榜していませんでしたっけ。

東京五輪の費用が膨大に膨らんだことに関しては、当メルマガでも取り上げました。

【関連】東京五輪の費用、当初7000億から3兆円へ。予算も気候も偽って誘致した責任は誰が取るのか

2018年10月19日(334号)「東京五輪・パラリンピックに関する会計監査報告から大会運営まで」で、全体支出が、当初の7000億円から、3兆円まで膨れ上がることを指摘しました。

まぁお金に関しては「めちゃくちゃ」です。民間企業だったら担当者クビだけでは済まされないことになりますね。

今回のことのお金の話は、しっかりとチェックしておきましょうね。

東京五輪誘致での「嘘」

「この時期の天候は晴れる日が多く、かつつ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」……これは東京五輪誘致における、組織委員会のプレゼンテーションの一部です。

「温暖」と「猛暑」は、全然意味が違いますね。

このことは2018年10月の情報誌でも指摘したものですが、先日、テレビでもこのような指摘がありました。

17日放送のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」での、コメンテーターで出演の同局・玉川徹氏の発言です。

「なんでこんな事態になったのか、原点は何かと考えると、2013年の招致委員会の時の立候補ファイルというのがあるんです」と指摘。

同ファイルの「理想的な日程」の項目を読み上げ「『この時季の天候は晴れる日が多く、かつ温暖である。アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である』と書かれている。これを世界に訴えて東京に招致したんです」と話しました。

まったくの同意見です。

「嘘」をついてまでも(誰が見ても嘘だとわかることなので嘘にはならないのでしょうが)誘致した五輪、まあ最初からわかっていたことで、「いまさら」感がそこにあるのでしょう。

Next: 本当にアスリート・ファーストなら、「トイレ臭問題」の水泳会場も変更を



トライアスロン会場も変更を

これも当メルマガで指摘しましたが、水が臭い、大腸菌がうようよいるなどで大問題になったトライアスロン「スイム」会場も、お台場からもっと水がきれいなところに変更したらどうでしょう。

この際ですからね。

これも2019年8月26日379号「東京五輪・パラリンピックのテスト大会、水質悪化で水泳中止」で検証しています。

【関連】後に引けない東京五輪。トイレ臭水泳会場、遊泳禁止も「条例変更」で強引開催へ=ら・ぽ~るマガジン

マラソンや競歩が、土壇場で会場が変更できるのであれば、それが「アスリート・ファースト」の観点から行われるのであれば、トライアスロン会場も変更されて然るべきだと思いますよ。

お金はかかりますけど…。

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【関連】東京五輪のために我慢しろ?2分に1回、都心上空で騒音を出す羽田「新ルート」=ら・ぽ~るマガジン

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・結局は英国EU離脱は先送り/大丈夫か、ソフトバンク/東京五輪マラソンと競歩競技会場を札幌に変更、その舞台裏は(10/21)
・米中貿易協議部分合意、最も厄介な問題の幾つかは未解決/台風と地球温暖化との関係を考える(10/14)
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image by:Jo Galvao / Shutterstock.com

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らぽーる・マガジン』(2019年10月21日号)より一部抜粋
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