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新興国デフォルト危機に笑う習近平、コロナ禍を利用した「借金外交」で世界を牛耳る=原彰宏

コロナ禍で新興国が債務危機に陥れば、世界経済に混乱を広げることになります。20カ国・地域(G20)は4月の財務相・中央銀行総裁会議でも新興国債務危機は話題となり、発展途上国の債務返済を今年は猶予することで合意しました。ここで、返済猶予に同調しなかったのが中国です。新興国の中国依存……この動きが危うさを生んでいるのです。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2020年6月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

アフリカ大陸に感染拡大

アフリカ全54カ国で新型コロナウイルスの感染者が確認されました。

感染対策費や資源安などが打撃となり、対外債務を抱えるアフリカ諸国は返済に苦慮しています。

世界保健機関(WHO)アフリカ地域事務局は6月22日、アフリカ大陸における新型コロナウイルス感染者数が21日に30万人を超えたと発表しました。

アフリカでは2020年2月14日にエジプトで初の感染者が確認され、その98日後には域内全体で感染者数が10万人に達しました。さらにその19日後には20万人を超えるなど、感染拡大が加速しています。感染者数が30万人を突破したのは、20万人に達したそのわずか10日後です。

新型コロナの蔓延は、石油価格急落と相まって経済活動に深刻な打撃を与えています。

国際通貨基金(IMF)は4月末、ナイジェリアに新型コロナ対策で34億ドル(約3,600億円)の緊急支援を承認し、エチオピアには4億ドル強、エジプトには27億7,000万ドルの緊急融資も決めました。

世界銀行によると、国民総所得(GNI)に占める対外債務残高はサハラ砂漠以南の諸国の平均が約4割で、もともと借金頼みの脆弱な財政ですが、新型コロナで急速に返済余力を失った格好となりました。

経済停滞に資源価格の急落が打撃となり、国連アフリカ経済委員会は今年のアリカの燃料輸出収入が1,010億ドル減ると予測しています。

アフリカ諸国の財務相は3月末、40億ドルの債務返済猶予を含む1,000億ドル規模の経済刺激策を訴えました。

中国「債務のワナ」

新興国が債務危機に陥れば、世界経済に混乱を広げることになります。

20カ国・地域(G20)は4月の財務相・中央銀行総裁会議でも新興国債務危機は話題となり、発展途上国の債務返済を今年は猶予することで合意しました。

ここで、返済猶予に同調しなかったのが中国です。

広域経済圏構想「一帯一路」でアフリカへの融資を膨らませた中国の影響力を増すとの観測が浮上しています。

このことはアフリカに限らず、新型コロナ危機のあおりで全世界での新興国対外債務問題が深刻化している中で、広域経済圏構想「一帯一路」に絡んだ新興国の巨額の隠れ債務に光が当たり、貸し手の中国が他国を圧倒する「新興国のメインバンク」としての姿をあらわにしつつあるからです。

「新興国の中国依存」、この動きが危うさを生んでいるのです。

コロナ禍による経済苦で、多くの国は債務返済の負担が増し、コロナ対応が後手に回れば、新興国が感染爆発や債務危機の震源地になりかねない状況にまで追い込まれていると言えます。

そこで主要国は債務の減免を探りますが、中国はこれに及び腰となっています。

むしろ危機で強まる貸し手としての力を背景に、地政学的な野心の実現に動くとの警戒感も広がっているのです。

Next: とりわけ戦略的に重要な国や事業に対しては、手綱を引き締める可能性があ――



中国が債権国に対して持つ影響力は増す

とりわけ戦略的に重要な国や事業に対しては、手綱を引き締める可能性があり、中国が地政学上の要衝と位置づけるスリランカやラオスの事業に追加融資しているのは、まさにその兆候と言えるでしょう。

ケニアでは中国の融資で整備されたモンバサ港が債務不履行に陥り接収されるとの懸念もくすぶっています。

まさに、牙をむく「債務のワナ」です。中国の借金外交と呼ばれるものが牙をむき始めているのです。

20カ国・地域(G20)は4月の財務相・中央銀行総裁会議での新興国への債務猶予提案に対して中国も同調したものの「案件次第」との見方が強いようす。

「集団的な債務救済には加わるだろうが、債務を免除する可能性は低い…」、多くの専門家が指摘するところです。

中国は2000〜2017年にアフリカ諸国に、「一帯一路」による巨額のインフラ開発が背景に1460億ドルを貸し付けました。

「中国は利払いを求め続け、貧困国に債務返済か中国製品の輸入かの選択を迫るだろう…」と言うのが専門家の分析です。

以前から言われていたことですが、中国の支援には、債務国を借金漬けにする「債務のワナ」の批判がつきまといます。

コロナ危機発生後も中国に頼る新興国

ただ、コロナ危機の発生後も、中国への債務を膨らませている国は少なくありません。

深みにはまるのがスリランカで、2017年、中国の援助で建設したハンバントタ港の債務返済に行き詰まり、1999年の長きにわたる港の運営権を中国企業に譲り渡した事件は「債務のワナ」の典型例として批判されました。

ところが5月下旬、今度はそのハンバントタ湾と同国中心部の工業団地とを結ぶ高速道路を整備するため中国輸出入銀行からさらに約10億ドルを借り入れたのです。

ラオスでもコロナ危機下にもかかわらず、中国へと延びる鉄道と高速道路の工事が続いています。

このプロジェクトに向けて借りた資金の返済が絶望的になっているにもかかわらず、工事は続けられています。

プロジェクトを糸口に、中国がラオスへの影響を一段と強めるのは必至とみられています。

コロナ危機下で中国が債権国としての立場を強め、新興国に影響力を及ぼす余地が増しています。それゆえの米欧などで高まる債務減免の要請と言われています。

つまり、中国の影響力をそぐための新興国救済だという側面が見えてきます。

Next: 新興国の債務問題は経済・人道面の問題であるとともに、覇権競争の色彩も――



新興国への債務問題は覇権争いの火種

新興国の債務問題は経済・人道面の問題であるとともに、覇権競争の色彩も帯びているとも言えます。

もっとも新興国の債務危機問題は、コロナ問題以前から重要視されていて、国際通貨基金(IMF)と世界銀行が今年2月にまとめた報告書も、低所得国のうちすでに半数で対外債務が返済不能に陥ったか、その危機にあると指摘していました。

低所得国に対して6カ月間、債務の返済を猶予したとは言え、2021年以降の道筋は不明とのことです。

やはり中国の動きが気がかりのようです。

中国は、経済協力開発機構(OECD)メンバー国を中心につくる「パリクラブ(主要債権国会議)」に加盟していないこともあり、どんな債務をいかなる形で救済するか不透明なのです。

中国がとりあえずG20の合意に名を連ねたことを各国は歓迎したものの、額面通りに受け取れないところがあるのでしょう。

「パリクラブ」とは、1956年のアルゼンチンの延滞対外債務の繰延を話し合うため、債権国がパリに集まったのが始まりで、IMF・世界銀行のような国際機関ではなく、各債権国の代表者による友好的、かつ、ゆるやかな集まりです。

国際収支の悪化等で累積債務問題に直面したアフリカ、中南米諸国を中心にリスケ(債務の履行が行えるようにその返済条件を変更して、将来に繰り延べること)の要請が頻繁に行われ、1980年代に入ると、数多くの債務国に対してリスケが行われました。

この頃に、現在のパリクラブと呼ばれる運営形態が確立されました。

中国は新興国を狙った高利貸し?

基本的に中国は、一帯一路の関連プロジェクトで貸し付けた債務の救済に応じるつもりがないのでしょう。

実際に、中国商務省傘下のシンクタンク国際貿易経済合作研究院(CAITEC)の幹部は、共産党系の英字紙グローバル・タイムズに寄稿し、国外のインフラ開発などに提供した優遇ローンについて「債務救済の対象外だ」と述べ波紋を呼んだと報じられています。

中国開発銀行などが一帯一路の初年度にあたる2013年以降に融資した関連プロジェクトは67カ国で1,800案件、金額で1,350億ドルに達するとされていて、すべて救済の対象外になるということです。

しかも、これら融資の金利は世界銀行などに比べてはるかに高いそうです。年6%も珍しくないそうで、しかも返済までの期間は短く、多くの融資には天然資源や対象事業の収入、国有資産といった担保が設定されているとのことです。

中国の融資の多くが国営企業や特別目的会社を通じて提供され、その内訳も明らかになっていないため、IMF、世界銀行や国際決済銀行(BIS)の報告制度から漏れた融資も多くあるとされています。

世界銀行が対象としていない30カ国にも融資しており、特にデフォルト(債務不履行)の危険がある国々への新規の貸し出しは、半分近くを中国が占めているそうです。

Next: これは裏を返せば中国が大きなリスクを抱えていることも意味することでも――



中国は名実ともに世界最大の貸し手になっている

これは裏を返せば中国が大きなリスクを抱えていることも意味することでもあります。

つまり、中国の新興国への融資の実体は、完全にはつかめていないということです。

ある筋によれば、新興国が中国に対して負う債務のうち約50%、額にして2,000億ドル相当が、表に出ていない「隠れ債務」ではないかとも言われています。

これらを含めた新興国の対中債務の総額は3,840億ドルで、2013年と比べて2倍近くに膨らんでおり、1カ国でパリクラブに加盟する22カ国の合計(2,460億ドル)を超えるとのことです。

世界銀行(3,000億ドル強)をも上回り、中国は名実ともに世界最大の貸し手の地位を確立しています。

おそらく日本ではほとんど報じられない事実です。

中国から新興国への融資総額3,840億ドルに対し、一帯一路向けの融資額は1,350億ドルとの試算があり、大まかには中国の新興国向け融資の約3分の1が一帯一路関連ということになります。

中国も債務救済を飲まざるを得ない?

以上の検証から、もともと中国の融資姿勢には「互恵的な経済発展よりも戦略、安全保障上の目的が優先されている」と見るのが正しいようです。

融資を受けた側には、多額の債務を負った割に雇用面などで自国への恩恵が小さいとの不満もあり、中国企業がインフラ建設を一手に受注していることも問題視されています。

ただ、中国としても、このまま返済猶予に応じない態度を続けられるほど、世界の視線は甘くはありません。

新型コロナをまん延させた中国への不満が根強くあるからです。

債務救済への要請を拒否すれば、火に油をそそぐことになり、露骨に担保資産の差し押さえなどに動こうものなら、食料にも困っている国の弱みにつけ込むのか、と国際的な批判も噴出するでしょう。

米国の警戒

米国が警戒を強めているのは、以下の2パターンでしょう。

1つは、中国の国内経済が悪化して、期限が来た融資の借り換えに応じなくなり、新興国の資金繰りを逼迫させる事態。

2つ目は、中国が戦略的に重要とみて巨額の資金を投じたインフラ事業が行き詰まり、資産の差し押さえや政治的な影響力行使への誘惑に駆られる展開。

また、中国が最大の債権国になった今、その存在抜きに実効性のある債務減免は難しい……との見方もあります。

ポストコロナ世界における中国の台頭……まさに、中国の存在感が大きくなっていくようで、先週の軍事面での中国の世界制覇に加え、経済面での中国の示温材感の強さは、もはや止めようがないのかも知れません。

世界秩序の中心は、すでに米国ではなく中国になってるのでしょうね。

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らぽーる・マガジン』(2020年6月29日号)より一部抜粋
※タイトル、本文見出しはMONEY VOICE編集部による

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