市場はバイデン勝利を織り込んでいるが、最終的にはトランプ氏が勝利するとの私の見方は変わらない。トランプ氏が勝利すれば、これまでの市場の動きはすべて反転することになる。(『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』江守哲)
本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2020年11月2日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。
バイデン氏勝利を市場は織り込み
トランプ大統領が再選された場合、あるいはバイデン候補が勝利する場合の様々なシナリオが想定されているが、いずれのケースでも起きそうなことは、将来的なインフレ懸念がこれまで以上に高まることである。
株価はいずれ不安定化するだろうが、そのタイミングを図るのは難しい。しかし、いずれ激しいインフレが到来するだろう。その前に株価は異常に上昇し、金相場も急騰するだろう。このような状況はいずれ到来すると考えている。
ちなみに、市場はバイデン勝利を織り込んでいる。それは、欧州自動車株、ロシアやメキシコの動きを見ればわかる。例えば、欧州自動車株とバイデン氏の支持率を比較すると、支持率が急激に上がり始めた6月に入ってから、欧州自動車株の上昇が顕著になっている。これは、現在のトランプ政権の政治的な圧力がなくなることが、欧州自動車企業に恩恵を与えると市場は見ていることになる。
また、ロシア株の動きも興味深い。同様にバイデン氏の支持率が上昇した後、ロシア株は急落し始めている。これは、トランプ氏が大統領選で敗北すれば、関係が近いプーチン大統領には痛手となり、経済が悪化する可能性があると市場がみていることを示している。
これは、通貨の動きにも表れている。トランプ氏が敗北すれば、関係があまりよくないメキシコに恩恵があり、ロシアには痛手となるため、メキシコペソが買われ、ロシアルーブルが売られている。非常に面白い動きになっているのである。
現状を考慮すれば、バイデン氏が大統領選で勝利し、トランプ氏が敗北すれば、現在のトレンドが続く可能性がある。
しかし、逆にトランプ氏が勝利すれば、これまでの市場の動きはすべて反転することになる。そうなると、ロシア株は大きく買い戻され、ロシアルーブルも同様に買われる可能性がある。一方で、メキシコペソや欧州自動車株には売り圧力がかかる可能性もあるだろう。
このような視点で市場をグローバルに見ておくと、大統領選挙の結果を受けていろいろな市場でプレーができる。
多くの市場を幅広く見ておけば、視野が広がり、知識も増える。そのうえで、今回の大統領選挙の動向を今後の市場分析や投資判断に結び付けていくことが肝要である。
投票日以降は選挙をめぐる法廷闘争が繰り広げられる?
米連邦最高裁は29日、大統領選で郵送された票に投票日の消印があれば、投票9日後に選管へ到着した分まで集計する南部ノースカロライナ州の方針について、認める判断を下した。新型コロナウイルスの感染拡大で郵便投票や期日前投票が激増する中、選挙当日の11月3日まであと5日となった時点でも、投票や集計をめぐり各地で法廷闘争が続く異例の事態となっている。
同州の裁判で、トランプ大統領陣営や共和党は「集計対象は投票日から3日以内に到着した分だけにすべきだ」と主張していた。スタイン州司法長官は声明で、最高裁決定を「パンデミック中でも有効票はすべて集計しようという、州選管の努力が支持された」と歓迎した。最高裁は28日にも、東部ペンシルベニア州選管が投票日を過ぎて到着した郵便投票を集計することを事実上認める決定を下した。
ノースカロライナ、ペンシルベニア両州ともトランプ氏と民主党のバイデン前副大統領の支持が伯仲する激戦州。郵便投票を選ぶのは民主党支持者が多いといわれ、最高裁決定は共和党やトランプ陣営にとって痛手である。
共和党に有利な決定も出ている。連邦最高裁は26日、郵便投票受け付けの締め切りを投票日から6日後まで延長するとした中西部ウィスコンシン州の方針に関し、反対する共和党の主張を認めた。南部テキサス州最高裁は27日、期日前投票所を各郡1カ所に限定した共和党のアボット州知事の決定を支持し、「投票の機会が制約される」と反対する民主党の主張を退けた。
フロリダ大「米選挙プロジェクト」の集計によると、大統領選の期日前投票と郵便投票を済ませた人は、29日までに8,100万人を超えた。トランプ氏は「郵便投票が増えれば不正も増える」と根拠なく主張。結果次第では裁判に訴える構えで、投票日以降も選挙をめぐる法廷闘争が繰り広げられる可能性もある。
Next: 最後にトランプ大統領の巻き返しが起こる?
米大統領選挙の動向
米大統領選の結果を最多で当てた州を調べると、1900年から2016年まで(一部の州を除く)ではオハイオ州が93.3%と断トツで1位になっている。戦績28勝2敗のうち、2敗は民主党の大統領が勝利した時(1944年のハリー・トルーマン氏、1960年のジョン・F・ケネディ氏)である。つまり、トランプ再選のカギを握るのはオハイオ州ということになる。
最近の傾向をみると、2000年以降で最も正確に大統領を選出した州はオハイオとフロリダで、勝率は100%(両州は1996年以降で見ても全勝)、続いてアイオワ、インディアナ、バージニア、ノースカロライナ、コロラド、ネバダが80%となっている。このうち、オハイオ、アイオワ、フロリダは2016年に民主党候補から共和党候補へ鞍替えした6州(上記3州に加えミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシン)に含まれているため、注意が必要である。
1972年以降で最も正確に大統領となる候補を選出してきたオハイオ、フロリダ以外の州も勝率は比較的高く、過去3回は6州で全勝している。これらの傾向を把握したうえで大統領選挙を見ると面白いだろう。いずれにしても、オハイオ・フロリダ両州で勝たないと、大統領選での勝利はない。これだけは明白である。
バイデン氏は石油業界を敬遠
大統領選で民主党候補バイデン前副大統領が石油への依存を減らす方針を示したことを受け、石油掘削産業を擁する州では、連邦議会議員選挙の各民主党候補がバイデン氏の発言と距離を置き、相次いで石油業界への支持を表明したという。上院選に出馬するモンタナ州のスティーブ・ バロック知事は「私は自身の政党がモンタナの生活様式からかけ離れた政策を打ち出す際には常にそれに立ち向かう」としている。
22日に行われた大統領候補の最終討論会で、トランプ大統領は、バイデン氏が石油産業の破壊を計画していると非難。バイデン氏はこれに対し、国内の石油をゆくゆくは太陽光、風力などの汚染物質が出ない電力源に切り替える必要性を感じているとし、「石油業界からのシフトを目指すというのは、その通りだ」とした。トランプ氏はこれを攻撃材料にし、石油が主要産業であるテキサス、ペンシルベニア、オクラホマ、オハイオ州の有権者に「バイデン氏の発言を忘れるな」と訴えた。トランプ氏の得意とする、相手をけなす上手い攻撃である。
バイデン氏は討論会後、化石燃料補助金を廃止する方針に言及していたと説明。「化石燃料を廃止するわけではない」とし、「雇用は失われない。それどころか、代替分野でもっと多くの仕事が生み出される」とした。しかし、「時すでに遅し」である。トランプ陣営はバイデン氏の発言を受け、23日に激戦州のペンシルベニアで石油掘削事業の多くの雇用がリスクにさらされているとする新たな広告を展開した。
ニューメキシコ州のパーミアン盆地の一部が選挙区に含まれる民主党のソーシール・トレス・スモール下院議員も、討論会後にツイッターへの投稿で「バイデン氏の今夜の発言に私は反対だ」と表明。米国は「特定の産業を悪者扱い」すべきではないと指摘した。世論調査ではトレス・スモール氏と対立候補である共和党のイベット・ヘレル氏の支持率が拮抗している。トレス・スモール氏やバロック知事と同様にオクラホマ州のケンドラ・ホーン下院議員も、この問題で自党と距離を置く構えを示している。
また、テキサス州ヒューストンで再選を目指す民主党のリジー・フレッチャー下院議員はバイデン氏の発言について、「米国のエネルギー需要と将来の計画の複雑さに対応していない」と指摘した。ニューヨーク・タイムズとシエナ大学が実施した今月の調査では、バイデン氏の計画は全国的に3分の2の支持を得ている。ただし、石油産業が中心の州では多くの有権者が化石燃料からのシフトに懐疑的な見方を示している。民主党副大統領候補のカマラ・ハリス氏は、トランプ氏が文脈を無視してバイデン氏の発言を非難していると訴えている。
トランプ大統領の大逆転劇が始まる
大統領選挙はいよいよ目前となったが、トランプ大統領の巻き返しが始まるだろう。
面白いことが起きそうである。最終的にはトランプ氏が勝利するとの見方は変わらない。そうしなければ、彼が16年に勝利した意味がない。そのように米国は仕向けていくだろう。
トランプ氏は所詮、操り人形である。そして、国民もまた同じである。最終的にはトランプ氏が獲得した選挙人の数がバイデン氏を上回り、国民や世界を驚かせるだろう。
それがいま米国の選択であり、今後の行く末を決めることになる。そうならなければ、歴史がおかしなことになるのである。このような背景を知らない政治専門家や市場関係者のマスコミなどでの発言が、滑稽に見えてならない。
Next: どちらが勝っても同じコロナ対策?米国債の動向、投機筋のポジションは
米国債の動向
米国債は長期債の売りに伴いイールドカーブがスティープ化し、長短金利差は6月以来の大きさとなった。米大統領選後に新型コロナウイルス追加経済対策が可決され、多額の国債入札が実施されるとみられている。新型コロナ感染者の増加や大統領選をめぐる懸念を背景に米国株から資金が流出し、リスクオフの動きが強まっているが、米国債の追い風にはなっていない。
一方、11月3日の米大統領選でトランプ氏、バイデン氏のいずれが勝利しても追加コロナ対策が実施されるとの見方は多い。
大規模なコロナ対策は多額の国債入札につながる。特にバイデン氏は連邦最低賃金の引き上げやインフラ・環境関連での数兆ドル規模の投資を明言し、入札規模を一段と拡大させる方針を打ち出している。
そのため、民主党が勝利すれば、非常に巨額かつ迅速な刺激策が実施され、多額の入札が行われるとみられており、米国債市場はこれを織り込む一方、米国株は選挙前にややリスクオフとなっている。
投機筋ポジション(10月27日時点)
<S&P500ミニ先物>
ネットポジション:+115439枚(前週比+57609枚)
ロングポジション:+427706枚(前週比+31254枚)
ショートポジション:+312267枚(前週比-26355枚)
<ナスダック100ミニ先物>
ネットポジション:-491枚(前週比-6554枚)
ロングポジション:+65835枚(前週比-278枚)
ショートポジション:+66326枚(前週比+6276枚)
<ダウ平均先物>
ネットポジション:+2577枚(前週比-3751枚)
ロングポジション:+37572枚(前週比-3825枚)
ショートポジション:+34995枚(前週比-74枚)
<CME日経平均先物>
ネットポジション:-1904枚(前週比+1970枚)
ロングポジション:+7055枚(前週比+1029枚)
ショートポジション:+8959枚(前週比-941枚)
<2YR T-NOTE先物>
ネットポジション:-240265枚(前週比+1585枚)
ロングポジション:+420131枚(前週比+17688枚)
ショートポジション:+660396枚(前週比+16103枚)
<5YR T-NOTE先物>
ネットポジション:-357675枚(前週比+8563枚)
ロングポジション:+408488枚(前週比+15418枚)
ショートポジション:+766163枚(前週比+6855枚)
<10YR T-NOTE先物>
ネットポジション:+16212枚(前週比-6784枚)
ロングポジション:+544854枚(前週比-17476枚)
ショートポジション:+528642枚(前週比-10692枚)
<T-BOND先物>
ネットポジション:-259953枚(前週比-23317枚)
ロングポジション:+114708枚(前週比+13437枚)
ショートポジション:+374661枚(前週比+36754枚)
<FED FUTURES先物>
ネットポジション:+224520枚(前週比+6250枚)
ロングポジション:+467056枚(前週比+8365枚)
ショートポジション:+242536枚(前週比+2115枚)
米国株の投資戦略の考え方
米国株は米大統領選挙を前に売られている。特に直近ではハイテク株の下げが目立っている。これまでと異なり、けん引役だったセクターに売りが出ているが、これは将来見通しが立たない中で利益確定売りを優先させる動きである。
いまは米大統領選を前に投資家心理は不安定な状態にある。したがって、なかなか買い上がっていけない。しかし、これは時間が解決してくれる問題である。したがって、準備をしたうえで対処できるように体制を整えておくことである。
1928年以降、24回の米大統領選挙の前週のS&P500のパターンを確認しておこう。株価は平均で1.00%上昇しているが、上昇確立は67%だが、下げたのは今回を含め8回ある。特に今回は5.64%の下落となっており、過去最大の下げである。一方、その翌週、つまり米大統領選挙の当該週の月曜日と火曜日を併せた2日間の騰落率は平均1.06%上昇で、上昇確率は87%である。つまり、11/2・11/3は上げやすいということになる。
また、前週に下げた年の過去7回のうち、当該週も下げた年は1度だけであり、それは1988年のブッシュ氏のときである。前回2016年のときも、前週は1.94%下落したが、翌週の月曜日と火曜日で2.61%上昇している。
このように考えると、今年は当初、バイデン氏の勝利予想が強まると株価が下落していたが、途中からバイデン氏勝利の場合には、財政拡大を材料に買いとなり、直近はバイデン氏の勝利の確率が低下したことが売り材料になっているようにみえる。
しかし、本来は「トランプ勝利で買い」であり、バイデン氏の敗北は視野に入れる必要はないと考えている。いずれにしても、勝敗はすぐにはわからない可能性が高そうである。
Next: 10月末の下げはやりすぎだった?来年に向けた仕込みのチャンス到来か
来年に向けた仕込みのチャンス到来か
市場は乱高下する可能性をはらんでいるが、そうなればその時である。素早く対処するしかない。最終的に、前週の下げはやりすぎだったということになるのではないかと考えている。
今年は前週まで見ると、主要資産で上昇が目立つのがナスダック100のETFであるQQQの27.56%上昇である。また、S&P500グロース株のETFであるIVWも16.87%上昇している。また、テックETFのXLEは22.31%上昇である。さらに、中国株のETFであるASHRも20.95%上昇と、高パフォーマンスを示している、一方、金ETFのGLDは23.28%、銀ETFのSLVは31.89%、それぞれ上昇している。さらに、債券では20年超の長期債ETFのTLTが17.67%の上昇と検討している。このように、上げているETFはかなりのパフォーマンスになっている。
結局、1-10月はハイテク株と金・銀、長期債に投資しておけばよかったということになる。過去のパターンを見ると、翌年も同じパターンになることはあまりない。したがって、来年はハイテク株ではなく、別のカテゴリーのセクターが上昇する可能性は十分にある。あえてパフォーマンスが特に悪いものに投資しておくと、翌年は大きなリターンが挙げられる可能性がある。念頭に置いておいてもよいだろう。
ちなみに、国別では、ブラジル(EWZ)、フランス(EWQ)、イタリア(EWI)、メキシコ(EWW)スペイン(EWP)、ロシア(RSX)、英国(EWU)の下落率が軒並み20%を超えている。
IJR (S&P500スモールキャップ、13.02%下落)
IVE(S&P500バリュー、13.19%下落)
IJJ(ミッドキャップ400バリュー、16.70%下落)
IJS(スモールキャップ600バリュー、19.90%下落)
DVY (DJ配当、18.70%下落)
XLE(エネルギー、49.55%下落)
XLF(金融、20.84%下落)
USO(石油、75.35%下落)
UNG(天然ガス、24.38%下落)
最大のリスクは、大統領がなかなか決まらないこと
米大統領選を前に投資家心理は不安定なままであろう。その大統領選もいよいよ目の前に迫ってきた。
最大のリスクは、投票結果が不透明になり、大統領がなかなか決まらない状況になることである。トランプ氏が敗北を認めないリスクも市場では懸念されている。どのような状況になるかはわからないが、それをあらかじめ予想して短期ポジションを取ることはできない。最終的には市場の動きに合わせるしかない。
もっとも、下げれば長期ポートフォリオ戦略の範囲で押し目を粛々と買っていくだけである。このポリシーを忘れて安値で売ってしまえば、これまでの積み上げがすべて無駄になる。とにかく、大きく下げて深押しになったときが資産を増やすチャンスである。
今回の米大統領選でそのようなチャンスが来るかは不明だが、そのような動きになれば、果敢に買い下がっていけるように準備しておきたい。無論、短期的に下げがきつくなれば、短期トレードでショートを保有し、利を伸ばすだけである。
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本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2020年11月2日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場や日本市場、為替、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。
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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。