テロの温床か? 悩める欧州に「シェンゲン条約」という課題

 

欧州は第2次世界大戦という国家同士が総力戦で臨んだ結果である痛々しい経験を教訓にして統合の動きを進めてきました。経済面からはじめて金融政策、財政政策へと徐々に分野を拡大。シェンゲン条約により国境というこれまで人工的な緩衝帯を撤廃することで条約締結国間でのモノと人の動きを自由にするまでに至りました。今回の難民問題ではこれがあだとなり、数え切れないほどの難民が流入しました。

ドイツのメルケル首相は両手を広げてこれら難民を受け入れる姿勢を示すことで欧州各国にも同調するように圧力をかけ、否応なく周辺諸国もこれに追随せざるを得ない状況になり、難民受け入れを迫られています。当然のことながらシリアの戦火を逃れてきた純粋な難民もいますが、これとは異なる動機を持った経済移民のほか、テロリストなどの反社会的な分子も多く紛れ込んでいるようです。欧州各国でテロが発生する温床となりつつあることが危惧されている状況です。

ドイツを中心にこれまでもさまざまな困難を乗り越えてきた欧州ですが、今回の事態に対してはツギハギの対応で、まだ予断を許さない状況です。素人目にも明らかな根本的な問題解決に至るまで、難民問題が収まることはないのではないでしょうか。統合を進めてきた欧州にとって巨大な課題となっています。

フランスはテロに妥協しないという断固たる態度を示すためにイスラム国のシリア領内にある拠点を空爆。既に大規模な介入を始めたロシアと協調する可能性もあり得るでしょう。オバマ大統領になってからハト派的姿勢を保ってきた米国も決断する時期が差し迫っています。任期が残り少ないとはいえ、これまで中途半端な態度に終始してきた米国が重い腰を上げてロシアと協調して事態収拾に動かない限り、こうした混乱が治まることはないと個人的にはみています。

領地をめぐるいざこざはありますが、アジアはまだ比較的平和に見受けられます。こうしたアジアと比べて欧州はこれまでもテロの脅威に見舞われてきました。ロンドンでもテロ関連の事件がいくつも発生しています。まだまだ状況の先行きは不透明ですが、何かしらの対策が練り出されてくるだろうことを期待しています。解決の糸口はないと見られていた北アイルランドのIRAスペインのバスク地方の過激派なども駆逐した先人たちに倣って、より良き将来を築くための行動を取るであろうと期待せずにはいられません。

長文になりましたが、同時テロに関する懸念についてはここらで一旦筆を置きたいと思います。また、機会をあらためて欧州における移民を取り巻く状況についても触れるつもりでいます。

 

著者/藤隼人(「街角の風景」連載。イギリス・ロンドン在住)
米国に長年住んだあとに意を決して帰国したものの、ちょっとした縁からロンドンに移住。欧州の歴史や文化に惹かれた著者が、東西奔放し欧州の今を多角的な観点からお伝えします。日本ではあまり知られていない音楽シーンなどもぜひ紹介していきたいと思います。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

 

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