テレビキャスターは「権力」と対峙できるのか?

 

権力が一目置くのは調査報道

Q政治的に公平性を欠く放送を繰り返すときは、総務大臣の判断によって電波停止もありうる、という政府見解については? 

小川:「意見の分かれるところでしょうが、ここで放送法第4条や、放送法のつくられた経緯などの詳細に触れるわけにもいきません。今後さらに議論を深め、国民的なコンセンサスを得ていくべきだ、とだけ申しあげておきましょう」

「ただし、私がいいたいのは、今回のようにジャーナリストたちが集まり、政府の考え方は間違いだといくら主張しても、それだけでは権力の側は痛くもかゆくもない、ということです。権力に間違いがあり、ジャーナリズムがそれを直していくには、口先だけで何をいってもダメなのです。もっとも有効なのは、調査報道を積み重ね、確かな事実を権力にも社会にも突きつけて、『おかしいではないか』と問い続けることでしょう」

「調査報道は英語で『Investigative reporting』あるいは『Investigative journalism』と呼ばれています。これは、ある出来事を報道するとき、政治家・警察を含む官庁・企業などからの一方的な広報や情報リークに頼らず、報道する者が主体的に内部通報者を含むさまざまな人や組織を取材したり、資料をしらみつぶしにあたったりして得た情報を積み上げていくことで、新しい事実を突き止めていこうとする報道をいいます」(当メルマガ2014年11月20日号より)

「インタビュー記事や記者会見に基づく記事のように、誰がなにを話したと伝えるだけの報道とは異なり、調査報道は、仮説をたて、取材を重ねて検証し、さらに関連取材を広げる、データの裏付けをとる、といった調査的・科学的・論理的な手法をとります。ですから当然、手間も時間もかかります」(同)

「世の中に流通するのとは違う見方を提示するわけですから、証言者を見つけるのも一苦労ですし、証言者を隠して守ることにも神経をつかいます。発表する段階で各方面からかかる圧力も覚悟しなければなりません。ようするに調査報道は、『発表報道』と揶揄されるような浅い取材・報道と比べて、はるかに難しいのです。そんな深い報道がめっきり減ってきたことは、日本のジャーナリズムの危機を意味するでしょう」(同)

「読者のみなさんは、以上のような『調査報道』に価するものを、いまのテレビ報道のなかに見つけることができるでしょうか。誰かが発表したことだけをそのまま伝える『発表ジャーナリズム』や、悪いことをしたと世間が認めた者のところに押しかけて悪い悪いという『岡っ引きジャーナリズム』と呼ぶべき報道は氾濫しています。でも、まともな『調査ジャーナリズム』番組は、ほとんど見たことがないはずです」

「政治圧力によってテレビに自主規制、自粛、忖度などが広がっているならば、その事例を発掘し、テレビの萎縮のせいで社会はこんなにダメになった、と訴える調査報道番組を作るべきでしょう。しかし、それはありません。権力によるメディアへの圧力など、ないほうが不思議な当たり前のことです。それが存在することより、調査ジャーナリズムが存在しないことのほうがよほど深刻な問題だと私は考えています」

聞き手と構成・高坂 龍次郎

image by: Shutterstock

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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