湯布院をこす人気の湯治場
もうひとつの例は「温泉」。温泉といえば湯布院が有名だが、いま湯布院を超すのではないかと言われているのが湯布院の近くの熊本県の「黒川温泉」。80年代中ごろに私は友人4、5人で訪れたが、レンタカーで熊本中心地から1時間半から2時間かかる湯治場。
人気の立役者は、瀬の本観光ホテル社長の高島淳一氏。高島氏は黒川温泉を訪れる年代が非常に高いことから、このままいくと湯治場としてだめになってしまうと改革を決意し、47歳の85年に黒川温泉・観光旅館協同組合の初代組合長に就任。
ユニークな「黒川改革」
黒川改革として「企画班」「環境班」「看板班」の3班を作った。「企画班」は黒川温泉には様々な泉質の温泉があるので各旅館で露天風呂を作るよう整備。私が行った時も川沿いに温泉があって非常に気持ちよく、1,200円の入湯手形を購入すると3か所の温泉が利用できる。宿泊旅館では地元の食材の料理が提供され、地元ではなるべく農薬を使わないようにすることで蛍や赤トンボが飛び交っている。
「看板班」は東京にあるような看板が掲げられていると田舎らしくないということで、看板を全て撤去。「環境班」は面白いお風呂をつくろうという班だったが、そこに後藤哲也氏がおり3年かけノミ1本で洞窟を掘りお風呂にして「洞窟風呂」を完成。これが人気で全国から多くの人が訪れている。
異例のミシュラン二つ星に
現代人はコンクリートのビル、アスファルトの道路に囲まれ、パソコンと向き合い、満員電車での通勤などによってストレスがたまっていると思うので、黒川に来てお地蔵さんや石畳、四季が感じられる風景、派手なお土産屋ではなく射的があったり浴衣を着て下駄で歩ける昔の温泉町であることをアピールし、今や湯布院を超す人気となっている。湯布院へは山ひとつ超えるだけなので、湯布院と両方行かれる方も多い。
先ほど紹介した入湯手形の代金の200円がそれぞれ3つの旅館に、残りの600円が組合費として分配され、新たな温泉街を作る費用に充当される。この入湯手形は年間10万枚を超える売れ行きで、来客は年間100万人を超え、2009年版ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンでは温泉地としては異例の二つ星となり、今や日本屈指の人気のある温泉となり予約が困難な状況。
チームワークで地方を活性化
こうやってみるとアイディア勝負でリーダーがしっかりしており、規制をドンドン緩和し、みんなで協力。「黒川一旅館」として黒川全体でひとつの温泉を作るんだというチームワークがよかったように思う。
こういう地方を活性化させる努力が全国津々浦々にまだ沢山ある。ぜひこういうことをやって地方創生に結びつけて頂きたい。ただ、国が声をかけるだけではだめではないかとも思う。
(TBSラジオ「日本全国8時です」3月22日音源の要約です)
image by:Shutter stock
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