アメリカの「正義」に問う。原爆投下は一体何のためだったのか?

 

トルーマンの強気

チャーチルは本会議の始まった瞬間からトルーマンが強気なのに驚いていた。原爆のことを知った後で、彼はスティムソン陸軍長官に語った。

昨日トルーマンに何があったのか、やっと分かった。私には理解不能だった。この(実験成功の)報告を読んだ後で会談にやってきた彼はまったく別人だった。とにかくロシア人に向かってああしろ、こうしろと指図し、初めから終わりまで会議を取り仕切っていた。

一方、スターリンも、スパイによって原爆の情報をつかんでいた。宿舎に帰ってから、モロトフ外相に言った。「クルチャトフに、すぐに連絡して、仕事を早めろといっておこう」。クルチャトフとは、ソ連の核開発の責任者である。

これが米ソの核軍拡競争の始まりであった。

ロシア参戦の前に片をつけたい

米国は45年4月半ば位までは、日本を降伏させるために、ソ連の参戦は必要不可欠だと考えていた。本土侵攻のためには、関東軍を満州に釘付けにしておかねばならず、そのためにソ連の北からの攻撃が必須であった。またソ連の参戦自体が、日本を降伏に追い込む大きな衝撃になりうると考えていた。

しかし、その後、米海軍が制海権を握ったことにより、関東軍の帰国を阻止できる見通しがついた。またB29による絨毯爆撃で、日本本土侵攻自体ももはや不要という見方が広がっていた。

さらにソ連を参戦させることは東ヨーロッパのような厄介な問題を極東に持ち込む恐れがある。「ロシアが参戦する前に何としても日本問題に片をつけたい」(バーンズ国務長官)というのが、当時のアメリカの本音だった。

スターリンは5月7日のドイツ降伏から3ヶ月たてば、対日参戦すると約束していた。8月の初旬である。後のニキタ・フルシチョフ首相は次のように回想している。

スターリンは軍の幹部に、できるだけ早く軍事行動を始めるよう圧力をかけた。…参戦する前に日本が降伏すればどうなるか。ソ連にはまったく借りがないとアメリカは主張するだろう。

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