中国の「南シナ海活動は2000年の歴史」という真っ赤なウソを検証

 

中国でも諸説紛々の「9段線」の意味

その後、南沙諸島をめぐる周辺各国の確執の複雑な経緯についてはすべて省略する。矢吹晋の新著『南シナ海/領土紛争と日本』(花伝社、16年6月刊)の要約によれば、中国が岩礁の「島作り」に本格的に取り組み始める2014年まで「『新南群島』として日本政府が列挙した13の島嶼のうち、中華民国は最大の太平島を真っ先に実効支配し、残りの12島をフィリピンとベトナムがそれぞれ6島ずつ等しく分け合って」いて「出遅れた中国に残されていたのはではなく岩礁のみ』であった」(同書P.32~34)。

そのため中国は、9段線主張を盾に強引に島作りを進めるのだが、その9段線とは、伝統的な意味での国境」であって、線内の島嶼のみならず周辺海域もすべて中国のものであり、線外が公海もしくは他国の所属であることを意味しているのか、それとも線内の島嶼とその内水のみが中国領であって、それ以外は公海であることを意味しているのか、はたまたその場合に中国は排他的経済水域と大陸棚の権利は主張するのかしないのか──すべては曖昧なままである。

ホーチミン大学のハン・ヴィエト教授の論文「東海[南シナ海のベトナムの呼称]における中国のU字型線要求/その成立史と法的根拠」は「今日に至るまで、中国と台湾の学者によって、U字型線の法的性格についてのいくつかの解説が行われてきたが、その内容は各種各様に異なりしどろもどろだ」と指摘している(矢吹、P.64)。

  • 高之国=中国海洋発展戦略研究所員、海洋法裁判所判事「海の国境を示すのではなく、線内の諸島の領有権を主張したものである。中国は南シナ海のすべてを要求したことはなく、線内の諸島とその周辺水域を要求している」
  • 趨克渊=中国の海洋法学者「中国は歴史的領有権を持つ。これは排他的経済水域または大陸棚と類似の法的状態」
  • 趙理海=中国の海洋法学者「9段線は南シナ海における中国の領域と主権を代表するもので、少なくとも15世紀以降、南シナ海が中国の領域に属するという海洋領域を確認するものだ。線内のすべての諸島と近隣水域は中国の法的管轄権に属する」
  • 潘石英=中国軍事科学院海洋戦略研究所員「線内の岩礁と水域は歴史的に中国の主権と法的権利に属する。9段線は南シナ海の4つの群礁と群礁を囲む沿海線との中間線を描いたものだ。線で囲まれた水域は、歴史的に中国の内海という実質を持つ」
  • 趙国材=台湾政治大学教授「線内の岩島、浅い岩礁、砂州と水域に対して歴史的権利を持つ。南シナ海は当時広く中国の歴史的水域と認められていた」

──出鱈目と言っていいだろう。主権、領有権、周辺水域、近隣水域、領域、海洋領域、排他的経済水域、大陸棚、内海、歴史的水域、中間線、といった言葉が、国際海洋法などとの関連で何を意味するのかの定義も明らかでないまま飛び交っている。

7月13日の中国政府の声明もほぼ同じで、これらの言葉を並べ立てて、そのどれもが国際法に合致していると主張している。

  1. 中国は東沙諸島、西沙諸島、中沙諸島、南沙諸島を含む南中国海諸島に対して主権を有する
  2. 中国の南中国海諸島は内水、領海、接続水域を有する
  3. 中国の南中国海諸島は排他的経済水域と大陸棚を有する
  4. 中国は南中国海において歴史的権利を有する

主権の内容は何か。内水、領海、接続水域、排他的経済水域、大陸棚はもちろん海洋法に位置づけられている概念だが、具体的にどこの島嶼にどれを適用すると9段線になるのかの説明が行われたことがない。また、歴史的権利というのは海洋法にはない概念である。こうした混乱を整理しないまま、「2012年4月以降に発行された中国のパスポートにはU字型ラインの入った地図が印刷されている。その正確な意味がはっきり述べられることのないままに、多くの中国人は単純に、それが自国の主張する国境だと受け止めているのである。その立場から[指導部が]後退しようものなら、国内から怒りに満ちた批判があがる恐れがある」(ヘイトン、P.336)。それが習近平政権が陥っている自縄自縛である。

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