ポルシェがエネルギー規制値の上限に挑んだ919ハイブリッドの別次元

 

ただしこの高電圧に対応したコンポーネントを見つけることは極めて困難だったという。特に、電力貯蔵のためフライホイールジェネレーター、スーパーキャパシター、またはバッテリーのいずれが適切なのかを検討した結果、ポルシェは液冷式リチウムイオンバッテリーを選択した。この中には数百個の独立したセルが備わり、それぞれのセルは高さ7cm、直径1.8cmの円筒形の金属カプセルに封入され ている。

市販EV車とレーシングカーのいずれの場合でも、出力密度とエネルギー密度のバランスを取る必要があり、セルの出力密度が高くなるほど、より素早くエネルギーを充放電することができるが、もうひとつのパラメーターであるエネルギー密度は、貯蔵可能なエネルギーの量を決定する。

レースにおいて、バッテリーはわかりやすく言えば巨大な開口部を備えていなくてはならないということになる。なぜなら、ドライバーがブレーキングした瞬間に大量のエネルギーが 一気に流入し、ブースト時にはそれが全く同じ速さで出て行かなくてはならないからだ。

日常的な例で言うと、もしスマートフォンの空になったリチウムイオンバッテリーが919のバッテリーと同じ出力密度を持っていれば、1秒をはるかに下回る時間で完全に再充電することができる。ただし欠点としては、わずかな通話で再びバッテリーが空になることだ。スマートフォンを数日間使えるようにするには、エネルギー密度、すなわちバッテリー容量が最優先されることはいうまでもない。

日常で使用する電気自動車のバッテリー容量は、イコール航続距離と言い換えられるが、当然ながらレーシングカーと公道走行可能な電気自動車の要件は異なる。レースカーは短時間に大量の電気の出し入れが必要で、市販車はバッテリー容量そのものが重要という違いになる。

ポルシェは919ハイブリッドはブレーキエネルギー回生システムと、排気エネルギー回生システムをミックスして、800Vという高電圧で使用するという今まで想像できなかったハイブリッドマネージメントの領域に踏み込んでいる。2種類の回生システムを統合的に制御し、加速時に短時間で電気エネルギーを放出する技術は、将来の市販スポーツカーのハイブリッドシステムの電気エネルギー制御や電圧を試す最適な実験室の役割を果たしているのだ。

2020年に発売予定のEVスポーツカー

2020年に発売予定のEVスポーツカー

LMP1のレースマシン開発を通じて重要なノウハウが発見されている。例えば、エネルギー貯蔵 (バッテリー)と電気モーターの冷却や、極めて高い電圧の接続技術、バッテリーマネージメントシステムの設計に関することなどだ。この経験から、市販車開発のスタッフは、800Vテクノロジーを採用した4ドアコンセプトカー「ミッションE」を実現としている。この「ミッションE」は単なるコンセプトカーではなく、量産化が決定され市販モデルは2020年末の終わりまでに登場する予定だ。このスポーツカーは電気だけで走る初めてのポルシェ車となる。

image by: Auto Prove

 

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