ポルシェがエネルギー規制値の上限に挑んだ919ハイブリッドの別次元

 

エネルギー限界に挑むポルシェ

ドライバーは、1周が終わる時点でこの量を正確に、過不足なく使い切るように慎重に計算しなくてはならないのだ。もし超過すればペナルティーが科せられ、電気エネルギーの使用が少なければそれだけ加速パフォーマンスが低下する。ドライバーは、正確なタイミングで「ブースト」を停止し、スロットルから足を離さなくてはならないのだ。こうした操作が正確にできるように、ステアリングホイールには必要な情報の表示やスイッチが詰め込まれている。

ル・ マンでは、1周13.629kmの全長に合わせてレギュレーションが変更され、認められる電気エネルギーの量は2.22kWhとなっている。これは8メガジュールに相当し、つまりポルシェ919ハイブリッドはトヨタTS050ハイブリッドとともにレギュレーションで規定された中で最も高いエネルギークラスとなっている。

Porsche 919 Hybrid, Porsche Team: Timo Bernhard, Brendon Hartley, Mark Webber

ポルシェは、エネルギー規制値の上限に挑んだ最初のメーカーであり、 2015年の時点では唯一の8メガジュール・クラスのマシンであった。2016年には、トヨタも8メガジュールクラスに参戦し、一方のアウディは6メガジュールとなっている。 もちろんWECのレギュレーションでは、これらのクラスの差はほぼ完全に均衡させているので、どちらかが有利というものではない。

ポルシェ919ハイブリッドの技術コンセプトは、 様々な選択肢が何度も検討されたが、まずはフロントアクスルでブレーキエネルギーを利用しようとしたのは必然的だった。なぜなら、この方式はすでに開発済みで、大量のエネルギーを得ることができるからだ。

2番目のエネルギー回生システムとして、リヤアクスルでのブレーキエネルギー回生と 排気エネルギー回生が検討されたが、排気エネルギー回生を採用するに至ったのは、2つのメリットがあったからだ。それは、何より重量の軽さであり、その次が効率だ。

制動エネルギー回生のシステムは、極めて短時間に大量のエネルギーを回生しなければならず、それに対処するにはどうしても重量が犠牲になる。これに比べて排気エネルギー回生は、加速時間は制動時間よりもはるかに長いため、回生時間を長くとることができる。したがって、発電システムの軽量化を図ることができるのだ。加えて、919はエンジンの駆動システムをリヤアクスルに備えているため、リヤの出力が増大しすぎると、非効率なホイールスピンが多く発生することとなり、それによってタイヤの摩耗も激しくなる、ということが回避できるのだ。

WECマシン、ポルシェ919ハイブリッドに使用されるステアリング

WECマシン、ポルシェ919ハイブリッドに使用されるステアリング

919のハイブリッドシステムに関するポルシェの特徴は、800Vという高電圧を選択したことだろう。電圧レベルを決めることは、電動システムにおける根本的決断であり、バッテリーの設計、エレクトロニクスの設計、エンジンの設計、充電技術など他にも影響を及ぼす。そしてポルシェは、電圧レベルをできる限り高く設定したのだ。

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