予約をホールドし、ホテルのロビーに張り紙をする。「ニューヨーク行きリムジン、先着20人募集」。なにしろ300人近くがニューヨークに向かっていたのだ。あっという間に埋まり、翌日ニューヨークに向け、出発する手筈が整った。自室に戻り、さらにビールを飲み、ツインタワー崩壊の映像を眺めながら、テレビを点けっぱなしで眠った。
翌12日、募ったメンバーとともにリムジンに乗り込んだ。ストレッチリムジンではない、日本で言うところのマイクロバス程度の大きさの、観光などに使用される背の高いリムジンだ。車内はかなり余裕がある。乗客同士は、出発直後こそは何が目的でマンハッタンに向かうのか、ちょっとした会話があったが、その後、やはりみな無言だった。
およそ10時間のドライブの後、マンハッタンの対岸、ニュージャージーまでやって来た。しかし車内で流れるラジオの情報によると、マンハッタンは封鎖され、入ることも出ることもできないとのこと。なにしろまだテロの翌日だ。警備が厳しいのは当たり前である。
私は携帯電話で、親友に連絡する。するとマンハッタンの北側でハドソン川をまたぐジョージ・ワシントン橋の上部デッキだけが緊急用に通行可能だと知らされた。ジョージ・ワシントン橋は上下二段になっており、その上部のみ開いているわけだ。
運転手に道順を指示する。デトロイトの運転手だけに、ニューヨーク近郊はまったく不案内。ワシントン橋からマンハッタン島に入るよう指示する。マンハッタンは封鎖されている…というニュースにも関わらず、特に検問があったとも記憶していない。ただ、いつも渋滞している橋が、田舎町の大橋を渡るほどに不気味にがらがらだった。橋を渡っている途中、右手のローワー・マンハッタン、つまりツインタワーのあたりから黒煙が上がっているのが判る。倒壊は現実なのだ。
橋を渡りきったところで右折し、ヘンリー・ハドソン・パークウェイというハドソン川沿いをミッドタウンに向け南下する高速を行くように指示。何事もなく7番街とブロードウェイの交わるタイムズスクエアに到着した。