なぜ医者によって出す薬が違うのか?日本の医療に残された問題点

 

低価値医療の例

例えば風邪に対する抗菌薬の投与。これは価値の低い医療介入ですね。風邪を起こすウィルスには抗菌薬は効かないからです。ごくまれに細菌によるものもありますが、心配は無用です。なぜなら風邪の定義は抗菌薬が不要ということが前提だからです。

細菌性の病気であっても抗菌薬が一般的に不要な病気はまだまだあります。急性気管支炎や急性副鼻腔炎で軽い症状の場合ですね。特に健康な人がそのような病気にかかった場合抗菌薬は不要と国際的にコンセンサスが得られています。

医療機関や保険者はこのような医療を価値の低い医療とみなしています。不要な抗菌薬を投与することによって、アウトカムは変わらないのにコストがかかるからです。また最近では、薬剤耐性菌の蔓延が世界的な問題になってきています。不要な抗菌薬の使用が薬剤耐性菌蔓延の最大の原因です。そういう意味では、風邪に対する抗菌薬投与は低価値であるのみならず有害な介入といえます。

同僚医師との比較の効果

どうすれば医療の価値を高めることができるのでしょうか。これは医療機関や保険者のみならず患者にとっても大切な設問といえます。風邪に対する抗菌薬の投与については、患者が抗菌薬を希望することもありますが、やはりそれぞれの医師の役割がかなり大きいです。医師が勧める薬について、患者さんが断るというのは難しいですよね。

行動経済学における最近の研究によると、同僚との比較に大きな効果があることがわかりました。行動や状況について自分自身と近くの同僚と比較して、それに合わせようとする傾向があることが知られています。同僚との比較が社会的なプレッシャーとなるのです。

外科手術の成績についての外科医の通信簿(リポートカード)公開は米国のある地域などではよく行われていました。また、最近の研究では、外来での医師の抗菌薬使用に対して「価値」の改善効果が確認されています。小児科の医師と内科の医師の両群共に不要な抗菌薬投与が減ったのです。

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