アレックス・レモネード・スタンドの奇跡
アメリカでは、特に、暑い夏のシーズンになると、チビッコ達が手作りの「レモネード・スタンド」を自宅の前などで出している様子も、この季節の風物詩のような存在になっている。
チビッコ達のレモネード屋さん。
売ってるレモネードのお値段は、たいてい1杯50セントほど。
オママゴトの延長線のようなもので、大したお金にはならないが、子ども達は、そんな手作りの「レモネード・スタンド」を通じ、自分で働くことの楽しさや、お金の大切さを学ぶことになる。
そうした経験の価値の方が、レモネードで得られるお金よりもずっと大きい、という考え方だ。
しかしそんな、大したお金にならないはずの1杯50セントのレモネードを売りはじめた初日から、いきなり、2,000ドル(1ドル=120円換算で24万円)も売り上げたという、わずか4歳の女の子がいた。
それが、アレックスちゃんこと、アレクサンドラ・スコットちゃん。
厳密に言うと、この2,000ドルという金額は、彼女がレモネードを売ったお金の中から、小児病院に寄付した金額なのである。
いったいどういうことなのか?
ニューヨーク州に隣接する米国東海岸のコネチカット州に住んでいた、このアレックスちゃんは、実は、小児ガン患者だった。
しかも、ガンが判明したのは、彼女が1歳になる2日前。つまり、物心がつく前からガンと戦っている子だったのだ。
レモネード・スタンドは、治療費が払えない子ども達のためや、小児ガン治療の研究資金を稼ぎ出すために、アレックスちゃん自らが、どうしてもやりたいと言い出して、4歳になったとき、自宅の庭先ではじめたものだった。
もちろん、ご両親は反対した。
普通に健康な子どもでも、暑い夏の季節に、まだ4歳の女の子がレモネード・スタンドをやりたいと言い出したら、すぐにホイホイと賛成する親なんて、そんなに多くはないだろう。
しかも、アレックスちゃんは、当時、まだ完治する見込みのない小児ガンの治療中。
何かの拍子にガンが進行して、命にかかわる危険性すら十分に考えられたはずだ。
だいたい、自宅の前でレモネード・スタンドをやったくらいで、治療費が払えない子ども達のためや、小児ガン治療の研究資金の足しになるような、そんな巨額のお金を集められるワケがない。
そういうことは、国や自治体や、大きな企業とか、もっとお金持ちの誰かがやってくれること…などと、ついつい考えてしまうだろう。
しかし、アレックスちゃんは、自分の命がいつまで続くか分からない状況の中で、自分のため、そして、小児ガンで苦しむ他の多くの子ども達のためにも、寄付金を集めるためのレモネード・スタンドをやりたいと、ご両親の反対を押し切った。
たった4歳の少女が、自ら道を切り開こうというのだ。
なんてバカげた話だ。
そんなことできるわけないじゃないかって、思われる方も多いだろう。
しかし、そんなアレックスちゃんご一家のことを、よく知る近所の方々は、アレックスちゃんがレモネード・スタンドを自宅の庭先に出した初日から、続々とやってきた。
1杯50セントのレモネードを買うためだけじゃない。
幼い少女の無謀な夢を応援するためだ。
レモネードの代金の何倍ものお金を寄付の足しにして欲しいと手渡し、初日から2,000ドル以上の売上げになった。
さらに、アレックスちゃんのレモネード・スタンドの噂は、近所の方々に口コミで広がり、支援の輪は広がった。
いつもレモンを買いに行っていた近所のスーパー(A&Pです)は、アレックスちゃんが必要とするレモネードの材料を、すべて彼女に寄付することに決めた。
こんな感じで、たった1人のわずか4歳の女の子が、次々に奇跡を起こしはじめた。
そりゃそうだ。
治療の見込みのないガンを抱え、自らの「死」に直面し、大人でも絶望するほどの状況にありながら、青く澄んだ瞳を輝かせ、運命と戦っている小さな女の子の姿に、心を打たれない人間なんてこの世にいないだろう。
アレックスちゃんの存在は、次第に、アメリカ国内の新聞、雑誌、テレビでも取り上げられるようになり、お母さんが闘病生活の様子をホームページ上の日記につけてたこともあって、いつしか彼女を支援しようという声は全米へ。
「アレックスのレモネード・スタンド」は、全米各地に登場するようになり、その売上げをアレックスちゃんのもとへ送金する運動が広まっていったのだ。