――アメリカ国内の問題のひとつとして、格差社会が進んでいるという件も挙げられると思います。先日もニュースで、世界の8人の大富豪の資産と貧困層36億人の資産が同額だっていうデータが紹介されていて、これって去年は62人の大富豪だったはずなので、より進行しているように思われるのですが、そういった状況はトランプ政権下で是正されたりするのでしょうか?
冷泉:8人の大富豪の資産が……っていうのも、これって数字のマジックで、結局それが格差社会の象徴なのかって、ちょっと分かんないんですよね。なぜかっていうとビル・ゲイツさんなんか、自分の持ち株って売れないじゃないですか。やっぱり創業者で、株をずっと持ってたら、ものすごい額になっちゃうっていうのは事実なので。
だから、それを是正しろっていわれても非常に難しい。本当に是正しろっていうことになるんだったら、儲かる人は思いっきり儲かる代わりに、ベーシックインカムでみんな救いましょうみたいな話はひとつありますよね。あとは、ある程度以上儲かっちゃったら、「それは世の中変えちゃってるわけだから、もはやお金儲けじゃないでしょ」ってことで全部召し上げになっちゃったら、それはそれで困った話ですもんね。
そういう意味でいうと、これって正しい答えがない話で、取り沙汰するのもあまり意味がないのかもしれない。実際ゲイツさんなんて、ものすごい額の寄付してますからね。以前ちきりんさんが面白いこと言ってて、何の変哲もない人にお金を持たせるより、例えばゲイツさんが持ってることで、そのお金が本当に良いことに使われると。役人の給料に消えたりしないで、ちゃんと困っている人に届くようにやってるはずだから、それでいいじゃないか、みたいなこと言ってて。ネット上では炎上してましたけど、考え方としては悪くはないんじゃないかなって思います。ただ、そう考えると「自分の会社売ろうとしたら、借金まみれになっちゃうトランプさんって一体……」みたいな話になりますが。
ただ、確かに格差が広がっているのは事実なので、トランプさんがそれを是正するのかしないのかっていうと、シナリオとしたらダブルなんですよ。彼は先日すごい大事な発言をツイートしていたんですが、要するに「俺は世界に散ったアメリカの雇用を取り戻して、アメリカの製造業をグレートアゲインするんだ」と。そのうえで「だけど最先端の技術で勝ち抜いてきた強いアメリカも維持するから、両輪でいくんだよ」とも言うんです。……それって、まったくもって正しいじゃないですか。日本のリーダーもそれぐらい言えよっていうぐらい、正論なわけですよね。そういうことで考えるとトランプさんも、そんなに変なことはしないで、とりあえずは雇用を何とかしようするんじゃないかと。
例えば、もしヒラリーさんに「8人の大富豪の資産が……」っていう話を振ったとするじゃないですか。そしたら彼女は「今は知的産業が全ての世の中。だから、今からでも学び直しができるように、大学をタダにしますよ。みんな頑張りましょう」なんて言うんだろうけど、だからって「わーい、じゃあ大学行こう」なんて思わないですよ、みんな。それに対してトランプさんは、「額に汗して働くような仕事が減ったのは、それをメキシコに持っていくやつらが悪いんだから、それを全部取り戻して、皆にちゃんとした仕事に就かせてあげるよ」って言って、みんなそっちを支持したわけですよね。
だけどトランプさんも、それは多分やらないですよ。実際フォードも、トランプさんの意向を受けて、メキシコ工場をキャンセルして、ミシガンの工場を拡大するって言ったけど、その工場の中で働くのはほとんどロボットになるって話ですからね。あと、トランプさんの取り巻きのテスラのアーロンさんなんて、ネバダ州の砂漠のど真ん中にメガファクトリーって言って、ものすごく巨大なリチウムイオン電池と電気自動車の工場をぶっ建てたんですけど、フルタイムの労働者はたった3000人、最初は700人しか雇用しないとか言ってて。そこも中を見たら、ロボットだらけだったんですよ。
経済学者のポール・クルーグマンがいいことを言っていて、アメリカの雇用を奪った製造業の敵は、実は自動化なんだよと。でもトランプさんは、自動化に関しては絶対に批判しないですから。それをやっちゃったら、ビジネスマンとして話を元に戻す話になっちゃいますからね。だから、この問題に関してもトランプさんはゴマかしの連続でいくんじゃないでしょうか。
(続く)
と、まだまだ続くインタビューは次回、冷泉さんのもう一つの顔である「鉄道評論家」として、いろいろとお聞きいたしました。近日公開予定のこちらのインタビューもお楽しみに。欧米、日本を中心とした世界情勢からビジネス、鉄道、カルチャーまで話題豊富な冷泉彰彦さんのメルマガは毎週火曜日配信で初月無料です。この機会にぜひご登録ください。
Photo by: Sakito Taki(MAG2 NEWS)