自殺寸前からの逆転劇。故郷に奇跡を起こした「雪塩」誕生秘話

 

自殺寸前からの逆転劇~奇跡の「雪塩」誕生秘話

サトウキビ作りしか目立った産業がない貧しい島。西里はそんな宮古島で1967年に生まれる。幼い頃、父・秀徳に繰り返し「島のために役立つ人間になれ」と言われたという。だから「漠然と宮古島に関わる仕事がしたいと思っていました」(西里)。

島を良くするため農業に関わろうと、西里は沖縄本島で農協に就職。しかし、何年経っても宮古島とは接点のない仕事ばかり。結局26歳で島へ舞い戻る。以前にも増して故郷は寂れていた。

そこで西里は観光で島を活性化しようと決める。1995年、西里が作った観光施設の跡地が今も残っている。親戚や知人から借金をして造ったのは観光農園。広大な敷地を整備し、島に観光客を呼び込む切り札にと考えたのだ。目玉は珍しい蝶が飛び交うバタフライパーク。西里は必死で島内の蝶を捕まえて回った。

しかし、オープンから何ヵ月経っても客はまったく来なかった。ふくれあがった借金は2年で3000万円以上。追い詰められた西里は「自分が死ねば、保険金で借金が返せる。迷惑をかけないためには死ぬしかない」と決意する。ところが、「生命保険を取り出したんです。でもそれで3000万円を返せると思ったら、足りないんです。自分が死んでも払えないとわかった瞬間、死ぬわけにはいかない開き直るしかない頑張ればなんくるないさ、と」。

実はその頃もう1人、宮古島を何とかしたいと格闘する男がいた。西里の父・秀徳だ。サトウキビを使って新商品を作ろうと会社を立ち上げる。島の将来への危機感からだった。

「高校生が卒業すると1000人が1000人、島を出ていくんです。それ以上の進学する学校もなければ就職するところもないから、ほとんど100パーセントが島を出る。それをずっと繰り返し、この島は耐えてきたわけです。とにかく若い子たちに仕事を与えたかった」(秀徳)

しかしその取り組みは息子の観光農園同様、失敗。親子共々、後のない状況へ追い込まれる。

そんな2人の元へあるニュースが届いた。塩の生産が自由化され、全国で様々な塩づくりを行うブームが起きていたのだ。親子は「宮古島でも塩を作ってみよう」と決意する。

そして試行錯誤の末にたどり着いたのが、宮古島特有の岩盤に染み込んだ地下水だった。場所によって海水と混じり合うこの地下水から塩を作れないか。さっそく井戸を掘り、くみ上げた海水を蒸発させると、見たこともないような光景が広がった。

宙を舞ったのは驚くほどきめの細かい粉雪のような塩。「南の島に雪の塩が降った」(秀徳)と、父はその塩を「雪塩」と名付けた。

するとそこにさらなる奇跡が起こる。それが「世界で一番ミネラルを多く含んだ塩」というギネスの世界記録。「雪塩」の成分を調べてみると、18種類ものミネラルが含まれていることがわかったのだ。これを機に「雪塩は空前の大ヒット商品となる。

大逆転劇から17年。今、宮古島のパラダイスプランでは大勢の若者が働いている。高校を出てそのまま島に残る者、島外から戻ってくる者。従業員の数は宮古島だけでも120人を越えた。親子の故郷への思いは確実に島を変え始めている

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大手スーパーに対抗~故郷の島を幸せにする店

宮古島で畑仕事に勤しんでいる西里米一さん。掘り出したのは自慢の芋だ。一見、サツマイモのようだが、割ってみると中まできれいな紫色。宮古島特産の紅芋だ。

収穫を終えて向かった先は「島の駅みやこ」という店。客でにぎわう店内に並ぶのは、宮古島ではおなじみのマンゴーの中でも特に甘い「キーツマンゴー」や「宮古みそ」、さらに地元の卵を使った「手作りマヨネーズ」まで。ここには島内400軒の生産者やメーカーの商品が集まってくる。米一さんのおいしい紅芋も飛ぶように売れていった。

生産者たちが「ここがあるおかげで収入を増やすことができた」というこの店を作ったのは、他ならぬ西里だ。「オール宮古島。いろいろな生産者が持ってくる商品を応援して宮古島を活性化させる」と言う。

きっかけとなったのは島に次々と建てられている大手スーパー。そこには島の食材がほとんど並んでいないのだ。

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「島の駅みやこ」にはもう一つ特徴がある。宮古島産の鶏肉にふりかけていたのは自慢の「雪塩」。焼きあがったのは甘辛ソースが絶品の雪塩チキンだ。さらに地元の「かつおみそ」も「雪塩」味。様々な島の商品を雪塩でアレンジすることで、他にない魅力的な商品を作り出しているのだ。

そんな絶品揃いの「島の駅」は評判を呼び、今年3月、なんと沖縄本島の那覇市に2号店がオープンした。今や宮古島の商品を外へ発信する役割を担っている。

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