自殺寸前からの逆転劇。故郷に奇跡を起こした「雪塩」誕生秘話

 

料理を激ウマに変える~大ブレイク「雪塩」の仕掛け人

実は「雪塩」を作っているのは「塩屋」を運営しているのと同じ会社だ。

雪塩が生まれたのは沖縄本島からさらに300キロほど南西に浮かぶ宮古島だ。日本屈指の美しいビーチに囲まれた山のない島。4万8000人の島民が暮らしている。

そんな宮古島は今、まさに「雪塩」に湧いている。年間20万人の観光客が押し寄せる「雪塩ミュージアム」では女性たちが「ミネラルソルトホームスパ」(250g1852円)を手にぬりこむ姿が。「雪塩」はミネラルを豊富に含んでいるため、マッサージソルトとしても大人気なのだ。

さらに工場を覗いてみると、「雪塩」をたっぷり混ぜた大ヒット商品を製造中。数ある商品の中で最大のヒット「雪塩ソフトクリーム」(380円)だ。バニラに「雪塩」を練り込んだ甘じょっぱさが絶妙だ。

「雪塩」を生み出したパラダイスプラン社長西里長治(49歳)は宮古島出身。26歳で会社を起こし、「雪塩」を大ヒットさせると、その後、塩の専門店「塩屋」を全国に7店舗展開し、年商21億円を稼ぐ企業に成長させた。

店に並んでいるのは、西里が全国の塩メーカーを回り探し出した思い入れのある塩ばかり。「みんな真面目にいい塩を作っている。こんなにいいものだから、もっとたくさんの人に知ってほしい」(西里)と、料理の脇役に過ぎない塩を集め、繁盛店を作り上げた。

そこにはある仕掛けがあった。それが店内で丁寧に接客をするスタッフだ。彼らは塩を知り尽くした「ソルトソムリエ」。「おにぎりをおいしく食べられる塩は?」という客の質問に、「沖縄県の与那国島で取れた『黒潮源流塩』は、塩気が強いのと、甘みが出るので、ご飯との相性がいいんです」と答えているスタッフ。「塩屋」は単に塩を売るのではなく、料理をおいしくする今までにない塩の価値を伝えることで、客を掴んできたのだ。

02

例えば「瀬戸の粗藻塩」(100g545円)は海水に海藻エキスを入れ、煮詰めてつくった塩。この塩に合うメニューは脂がのったサンマの塩焼きだ。海藻のうま味を含んだ塩が、脂ののったサンマの味わいを存分に引き出してくれる。

一方、「わじまの海塩」(200g972円)。能登半島からおよそ50キロ北にある舳倉島(へぐらじま)の沖合の海水に特殊なライトを当て、人の体温ほどの低温でゆっくり結晶化させた塩だ。「うま味がたくさん含まれた塩なので、トマトの甘さを最大限に楽しめます」(ソルトソムリエの蔦林巨之)と、野菜との相性が抜群だという。

塩一つで料理を一変させるおいしいノウハウが、塩ファンを増やしているのだ。

塩に魅了された客を集めて「塩屋」が開くのが、塩の楽しさを口コミで広めてもらうためのソルトパーティー(参加費5000円)。この日、用意されたのは豆腐やキュウリなどの食材。実際に自分たちでおいしい塩の組み合わせを探していく。ある女性が「豆腐に合う」と発見したのは「ミエルシオ」(25g600円)。イカスミを合わせた、北海道産の真っ黒い塩だった。

「お客様は料理をおいしくしたい。塩を売ることは食卓が豊かになるためのお手伝いです」と言う西里。その狙いは、塩のファンを日本中に広め、食卓を豊かにすることにあった。

bnr_720-140_161104

おにぎりをおいしくする~ヒットを生む塩ハンター

東京・港区にある「塩屋」麻布十番店の店頭で、ある塩の試食が行われていた。おにぎりに使うとご飯の甘みが口に広がる奥能登の「揚げ浜塩」(50g400円)だ。

その塩作りの現場は驚くべきものだった。日本海の荒波の中、ひとり桶で海水をくみあげる塩作り職人の登谷良一さん。この地域では昔から、人力で海水をくみ上げ、浜に撒いて天日乾燥。その中から塩を取り出してきたという。

「潮くみ3年、潮撒き10年の修業が必要。手塩にかけて作った塩です」(登谷さん)

5年前、この「揚げ浜塩」を知った西里が「塩屋」で扱ったところ、一気に口コミで広がり人気商品になった。

「おにぎりに一番合う塩として1日に1000個売れてびっくりした。それは嬉しいですよ」(登谷さん)

全国を回り探し出した塩をヒット商品に変えてきた西里。この日は沖縄本島の東、浜比嘉島(はまひがじま)へ。向かったのは、たった一人で塩を作っている高江洲優さんの工房だ。

「流下式塩田といって、40年前からの製塩法なんです」と言う高江洲さん。手作りした大きな櫓のようなもので塩を作る。竹の枝に海水を流し、風の力で水分を蒸発させる。それを繰り返すことで海水を濃縮し、塩を取り出していくのだ。こうして出来あがるのが「塩屋」でも売るミネラルたっぷりの「浜比嘉塩」(100g308円)だ。

この日、高江洲さんはサフランを使って味を付けた開発中の新商品について、西里の意見を聞いていた。西里はこうして全国の生産者とタッグを組み塩の市場を盛り上げてきたのだ。高江洲さんは西里を「これから沖縄の塩業界を引っ張っていく方だと思っています」と言って信頼を寄せる。

print
いま読まれてます

  • 自殺寸前からの逆転劇。故郷に奇跡を起こした「雪塩」誕生秘話
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け