不穏な米朝会談、背後にうごめく各国の思惑を国際調停のプロが解説

 

次に、米朝首脳会談の実施において、アメリカから北朝鮮に突き付けていた“条件”は「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(Complete, verifiable and irreversible denuclearization: CVID)」ですが、専門家曰く、それを北朝鮮で実施するには、すぐに着手されたとしても10年以上かかるということが明らかになってきました。

もともとこの表現は、リビアの非核化を行ったケースを念頭に出てきていますが、核開発の初期段階であったリビアとは違い、北朝鮮については、核開発は相当程度まで進んでいると思われ、あとはいかに小型化し信頼度を増すかというレベルにあるため、「不可逆的で完全な非核化」のためには、恐らく10年では済まない期間が必要となるようです。それは、“仮にすでに知見があるアメリカの専門家やヨーロッパ、日本の専門家などが、北朝鮮の全面的な協力を得ても”という条件付きです。

トランプ大統領としては、これまで歴代アメリカ大統領が成し得なかったことを行うことで成果をアピールしておきたいところですが、11月の中間選挙に向けたスケジュールに鑑みると、「短期間で獲得できるものを必死で探しているようです。その一つは、中国を抑え込むことができれば、朝鮮戦争の終結と平和条約締結でしょう。

そして、中間選挙と絡み、トランプ大統領が成果を急ぐ理由は、ロシアゲートについての捜査との関係です。様々な情報を整理すると、本件でトランプ大統領本人を訴追することは避けるようですが(大統領が持つ法的な特権に鑑みて)、夏には出される(恐らく8月末までに)特別検察官報告書には、議会に対する「大統領の弾劾決議の勧告」が含まれる見込みです。

今のままであれば、全議席改選となる下院では、民主党が過半数を握るとの予測が有力ですので、下院において、大統領の弾劾などを話し合う委員会の委員長が民主党の手に移ることになり、その後の政権運営が出来なくなるほど大きなダメージとなりかねません。ですので、中間選挙までに目に見える成果を出す必要があると考えているようです(ただし、実際に有権者は、米朝首脳会談の結果が選挙結果を左右するとは考えていないようですが)。

次に、北朝鮮の思惑が透けて見えることから、やはり早急な会談は避けるべきだと思います。メディアなどでは、「トランプ大統領のいきなりの中止宣言を受けて、平壌が慌てて、文大統領に泣きつき、間を取り持ってもらった」とか「中国から離れて、アメリカにすり寄り、交渉条件で全面的に妥協した」といった論調が紹介され、いかにも北朝鮮がトランプ大統領の策にはまったというように描かれています。

「このままでは北朝鮮側が先に中止の発表をするかもしれないから、そうなるまえに先にアメリカが中止を発表してやろう」という戦略はあったかもしれませんが、いろいろと考えると、6月12日というタイミングでの開催を欲しているのは、金正恩氏ではなくトランプ大統領本人ではないかと思われます。そこに、北朝鮮側が付け込んでいるとも読めます。

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