【書評】官僚のニセ情報もチェックできぬ「文系バカ」のマスコミ

 

「人工知能」という訳語が誤解を与えているが、AIは人間の作った「プログラム」に過ぎない。AIは「知恵」はまったく持っておらず、人間の作ったプログラム通り、その範囲内で動くだけである。わたしはAIの知性が人類を超えて、というエンタメ・ヨタ話が好物だが、危険なことの起こるプログラムが書けるのであれば、それが起こらないようにするプログラムも書けることを知った

「シンギュラリティ」という言葉を使う人も怪しい。言葉の定義もできていないのに「大変なことになる」とかいうのは「ノストラダムスの大予言」と変わらない。プログラム化できる定型業務はAIに取って代わられる、というのは本当だ。この本は中見出しがうまい。編集者が良い(あれ?)。

著者は大蔵省に入省して3年目、まだネットのない時代に、省内LANを構築した。金融工学を用いて金利計算を修正した。文系大蔵官僚たちは金利リスクの根本を分かっていなかった。著者は郵政民営化の最初から最後まで関わる。わたしはこの本を読んで、郵政民営化の意味を初めて理解した。

財政投融資(財投)改革も著者のお手柄だ。当時の大蔵省は400兆円くらいを運用していたので、少しの金利変動でも大穴を空ける危険性があった。リスク管理を強化するためにALM(資産・負債の総合管理)の導入が必要と考え、異動時に金利リスクの論文を提出した。数か月後、大きなリスクのがあることを知った理財局に呼び戻され、ALMプロジェクトの全権を任されることになった。

ALMのシステムを外注すると、2~3年で10~20億かかるし、極秘なので内部で進めた。システム原型を遊び半分で作ってあったので、3か月という驚異的スピードでシステムを作り上げた。著者は大蔵省をリスクから救った人間とみなされ、「中興の祖」とまで言われて持ち上げられた。と、自分で書いている。まあ、他人の成功は誰も書いてくれないだろうから、こうするしかないが。

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