「浦島太郎」は、日本書紀の「浦嶋子伝記」の二次創作物だった?

 

青春を謳歌するauの現代版・浦島太郎

しかし、私は、巌谷小波の改変は決して褒められたものではないと考えるのです。巌谷小波は浦島太郎の話の中で何を言いたかったのでしょうか。伊余部馬養の浦島子伝説は、人々が欲しかった夢のお話です。皆、浦島子に憧れて自分もそうなれば良いなーと考えた姿なのです。釣った亀が、美しい女性に変化し、妻になるのです。そして、仙人の島にゆき不老長寿を手に入れます。その上で、永遠の生命ではなく、死の直前まで若くいての三百年後の死を手に入れるのです。

それにひきかえ、巌谷小波はいじめられていた亀をお金で買って逃がしてやります。すると、亀が恩返しとして迎えにきて、海の中にある竜宮城という別世界に連れて行ってくれます。乙姫様の舞、魚たちのもてなし、見たこともない美しい世界、そこで三年間過ごします。つまり、亀を助けたことにより、三年分だけ遊べたわけです。そして、戻った太郎は玉手箱を開けてしまい、年寄りになります。つまり、浦島太郎は亀を助けたために、実質その後三年間しか生きることができなかったわけです。そんな不条理なことってあるでしょうか。

小学生はこの話を教えられ、どう考えるのでしょうか。亀を助けるべきではなかった。余計なことをしたと思うのでしょうか。玉手箱を開けてはいけないと言われて約束したのに、その言いつけを守らないからひどい目にあったということを学ぶのでしょうか。私は、小学二年生の教材としても、どうかと思います。古来からの日本の伝承という意味で学ぶのであれば、オリジナルの話を提供すべきであったのではないでしょうか。いずれにしろ、小学校の二年生に、不老不死や神仙思想を理解させるのは難しいと思います。

今の子どもたちは、浦島太郎を学ぶ機会はありません。日本昔ばなしか、絵本を通してしか、浦島太郎に触れることはないのです。この巌谷小波の現代版浦島太郎であるなら、それもいいのではないかと思います。もしかすると、auのCMが作るイメージによって浦島太郎を知るのかもしれません。auの浦島太郎は、玉手箱を開ける前の浦島太郎です。今の青春を謳歌している太郎に、菜々緒の乙姫は玉手箱を渡さないのではないかと思います。玉手箱は、生への絶望を救ってくれる宝箱なのですから。

編集後記

auの浦島太郎は、漁師という仕事をこなしながら、桃太郎や金太郎という友達と、乙姫という恋人を手にしています。海を見て歌い、いろんなことに飛び込んでチャレンジをしています。浦島子伝説にも浦島太郎の物語にもなかった、青春を謳歌する姿があります。それこそが、一番幸せな姿なのではないでしょうか。そして、確かに、現代のキラキラした青春時代を支えているのはauに限りませんが、携帯電話なのかもしれないと思うのです。

image by: Matthieu Tuffet / Shutterstock.com

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