「バイト炎上動画」問題で露呈した、外食大手チェーン店の脆弱性

 

一方で、チェーンの場合は、現場は最低賃金ギリギリのバイトで回すことになります。ですから、バイトには自発的なモラルや、自発的な労働の喜び、あるいは名前や顔のある形での消費者からの尊敬や親しみということはありません。反対に、マニュアルを守らせるための「上から目線の研修」や、警察のような本部の監視があるだけです。

残念ながら、今回の事件で問題を起こしたチェーンでは、そのような監視や研修は、以前よりも更にエスカレートするに違いありません。とにかく、実体のないブランドの価値を膨張させ、そのイメージが信頼感の源泉だし、イメージを失えば全てを失うという経営構造は、それ自体が脆弱性だと思います。その結果として、現場には自発的なモラルを生じにくい構造が生まれてしまいますし、馬鹿げた幼稚な行為で壊れてしまうわけです。

見方を変えれば、生鮮品の調理という労働から喜びや付加価値を奪っているわけですが、消費者に対する安全性の保証はナショナルブランドの知名度でカバーさせているわけです。その構造全体には大きな無理があると思います。

今回の一連の事件は、その脆弱性を見事に見せつけたと思います。とにかく、居酒屋にしても、寿司にしても、あるいはファミレスにしてもチェーン化・企業化が進み過ぎています。そして大量生産、大量出店による薄利多売の構造がこれに加わり、内部でのコストカットも進んでいます。

つまり、ビジネスとして極めて脆弱になっているのです。外食における血の通った個人経営が大きなマージンを享受し、使用人も暖簾分けでオーナーになれるというキャリアパスを示せるような、ある意味では昭和の時代の制度に戻すべきです。

image by: Fotos593 / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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