福生病院「透析中止報道」に違和感。現役医師が抱いた10の疑問

 

3 人生会議(ACP)は、どのように行われたのか?

厚生労働省によって、昨年11月に「人生会議」という愛称が決まったACP(アドバンスケアプラニング)は、何回行われたのだろうか

もし透析を中止したなら、2日後、3日後、4日後あたりの、本来の透析日にも二度目、三度目の話し合い(人生会議)があったはずだ。中止=死を待つことだから、私の場合は本人意思を尊重し透析を中止した人は、毎日医師や看護師が訪問して、緩和ケアと並行して考えが変わらないか繰り返し確認する。また中止ではなく、透析導入を拒否して在宅看取りを希望される場合も同様である。要は人生会議が何回行われたか、それはどんな内容だったのかを知りたい。

ただし、今回のケースの場合、女性の死の前日に夫は急な胃病のために同じく福生病院で緊急手術を受けている。夫が麻酔から覚めたときにはもう、女性は亡くなっていた。そのため、夫を交えての人生会議が不可能だったということも考えられる。

4 透析中止後、死に向かう過程を本人と家族にどのくらい説明したか?

中止後にどんな苦痛が予想されるのか、死に向かう過程の説明はなされたか。亡くなるまでの対応方法を説明されたのか。死の前日に夫に送ったメール画像がそのまま掲載されているが、もはや意識レベルが低下したせん妄状態に陥れば「苦しい助けて何とかして!」と訴えることがある。あるいは拙書『痛い在宅医』で描いたように「死の壁」の最中に書いた文章かもしれない。

その訴えは「再開」というよりも「逃れたい」という緩和ケアの渇望のように思えた。私の場合は、予想される「死の壁」に対してモルヒネや安定剤の座薬で備えているが、このケースでは実際、どうだったのか。なによりも透析中止後の緩和ケアが大切である。それが下手だとご家族には後悔が残る。すべての透析患者さんが緩和ケアの対象であることは当然である。

また死亡前日の本人・家族からの透析再開の要請にどう対応すべきだったのか。

同紙3月7日の記事には、こんな記述がある。

夫によると、病室で女性は「(透析中止を)撤回したいな」と生きる意欲を見せた。「私からも外科医に頼んでみよう」。そう思って帰宅しようとしたところ腹部に痛みが走った。ストレスで胃に穴が開き、炎症を起こしていた。外科医に「透析できるようにしてください」と頼み、同じ病院で胃潰瘍の手術を受けた。翌16日、麻酔からさめると女性は既に冷たくなっていた

どんな時でも患者さんの申し出に対し自分の意見を押し付けるのではなく丁寧に向き合うことが医師の使命だ。

しかし死亡前日に透析再開の希望があっても全身状態が極めて不良で透析を再開したくても、もはや透析ができない状態であった可能性が高い

もしそうならその旨を丁寧に説明するしかないのだが、それがなされたのか。それとも、夫の急病により、したくてもできなかったのか。

報道では、女性の死の前日の対応を問題視しているようだが、その手前の、中止後数日間の対応こそが重要である。

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