校内で生徒たちが楽しげに笑い合っているシーンですが、その中には心の中で涙を流している子がいるかも知れません。今回の無料メルマガ『いじめから子どもを守ろう!ネットワーク』では、 元公立高校校長である清川洋氏がかつての勤務校で遭遇した、「いじり」によるいじめ問題の解決までの一部始終を詳細に記しています。
「いじり」に関する一件
今から8年ほど前のことです。私はある公立高校の教頭でした。勉強は得意でない者が多かったのですが、何事にも真剣に取り組み、素直な人柄の生徒が数多くいる学校でした。私にとっては、自宅から自動車で1時間以上かかる「遠い」学校でした。しかし、生徒や先生たちの雰囲気がよく、物理的距離は「遠い」のですが、心的距離は「近い」、いわば「遠くて近い」学校でした。生徒の問題行動がなかったわけではありませんが、大きな事件はほとんどなかったように思います。
ところが、ある日突然に、いわゆる「いじり」による「いじめ」の問題が発覚しました。それは、体育祭の翌日の朝、ある男子生徒の父親からの担任への電話で発覚しました。
事件の発覚-それまで担任は問題性を感じていなかった
父親からの電話によると、昨夜、男子生徒が自室で首を吊って自殺をはかったとのことでした。幸いなことに父親が発見し引き留め、未遂で済んだとのことでした。さらに、なんと連絡のあった今朝は、登校するために家を出たというのです。男子生徒は、朝になったから、「学校に行かなくてはならない」と思ったようです。
私たちは、登校してきた男子生徒を別室に入れました。男子生徒の首は内出血で赤くなっていました。本人の体調を確認の上、保護者と本人の了解の下、事情を聞かせてもらいました。
男子生徒によれば、これまで同じクラスの男子5人に休み時間などに、お笑い芸人の物まねや、流行歌を歌うことを強制され、クラスメイトの笑いものにされていた、ということでした。まさに「いじり」型の「いじめ」です。
担任は、文化祭の際の教室で、男子生徒が歌を歌っていて、クラス生徒の多くが手をたたきながら笑って盛り上がっていた様子を目撃しており、男子生徒の性格から人前でパフォーマンスを披露するような性格でないので、担任はその時、不思議な感じを受けたことを報告してくれました。ただ、その場は、すぐに収束した(担任の姿をみたからだと思います)ため、そのままにしたと言いました。楽しそうにしている様子なので、問題性を感じなかったようです。
たしかに、多くの生徒が笑顔で盛り上がっていると「楽しそう」にしているように見えてしまいます。私も、今さらながら、そこに「いじり」型の「いじめ」を見落とす可能性があると知りました。
高校生をはじめ、子供には、テレビ番組のお笑い芸人などが「商売」でいじられることを売り物にして、お金を稼いでいることに思いが至らないものだと思います。